『今年の抱負』
我が国では、毎年ひとり抽選で願い人が選ばれる。
国で一番の高さを誇るタワーに吊るされ、日の出から日の入りまで耐え続けると、国がひとつだけ願い事を叶えてくれるのだ。
死者を生き返させるとか、時間を巻き戻すとかの実現不可能な願いは対象外。
その代わり、国家権力で叶うものはなんでも許される。
かつて人々は、各自年が明けると新年の抱負を語っていたらしい。
それが廃れ、人々が夢や希望を語らなくなり、無気力無感動が国に蔓延した時に、この制度が出来たという。
こんなことがやりたい、
こんなことをしようと計画している。
はじめはそういう言葉を後押ししていたそうだ。
耐え切れる者がいない今となっては、影も形もないが。
数年前、私の婚約者が願い人となり、帰ってこなかった。
今年は私が選ばれた。
私はやりきるつもりだ。
もうこんなことは終わりにするのだと――願うために。
『新年』
新しい年が来た。
子供の頃は何をやろうか、何が待ち受けているのかとワクワクしたものだが、歳を取ると一年の無事を何よりも願うようになった。
変化よりも安定。
体調はもちろんのこと、とにかく生活が。
米の値段は下がらないし、物価高はノンストップ。
なんでこんなにチョコ高いの?
安定志向も仕方なし。
今年はなにが流行るだろう。
そういう楽しみはあるよね。
そんなこんなで、
今年もよろしくお願いします。
『良いお年を』
大掃除は12月の頭から、少しずつ出来るだけやった。
汚れ物も全部洗濯した。
布団も干した。
タオル類や寝間着も新しいのを出した。
家中の電池や電球も新品と交換した。
神棚を清めた。
仏壇も綺麗にした。
玄関外には正月飾りも掛かってる。
お節も重箱に詰めた。
さて、皆様良いお年を――
『凍てつく鏡』
最低気温が、氷点下にまで下がることが増えた。
朝、道のくぼみに僅かに溜まった水が薄く張った氷になっているのを、パリパリと踏んで通る。
子供の頃はそれが楽しかったが、大人になると滑らないか転ばないかと、恐々渡るようになった。
たまに水の量が少し多めで、厚い氷が出来ていることがある。
みんなが通ったことで表面が磨かれ、鏡のようになっているものも。
周りに人がいない時、そっとしゃがんで覗き込む。
クリアには見えないけれど、薄ぼんやりと影が映る。
昔の銅鏡とかも、こんな感じだったのかなぁ。
『雪明かりの夜』
雨がいつしか雪に変わった。
寒波がきて冷え込んだせいだろう。
夜中トイレに起きて、戻りがてらふとベランダのカーテンの隙間から外を覗いた。
いつもなら、真っ暗な中に街灯の光が何かの光線のようにくっきりと放射状に差しているのに、今夜は少しぼんやりと、薄いベールを一枚掛けたようにやわらかな光が辺りを包んでいた。
視界全体が薄っすら白い。
街灯の当たるところだけ、ひらひらと舞い落ちる雪の欠片が照らし出されている。
雪の降る描写に、「しんしんと」という擬音はなんてしっくりくるのだろう。
しんしんと、雪が降る。
辺りを白く照らして。