『大好き』
人でも物でも、大好きと強く思ったことがほとんどない。
いいなぁとか、好きだなぁくらいなら儘ある。
逆に、大嫌いだと思うこともほとんどない。
友人に、大好きを連発する人がいる。その人は感情の起伏か激しくて、大好きと言った次の日には大嫌いだと叫んだりする。
思うに、大好きと大嫌いは天秤の両端なのではないだろうか。
人でも物でも、その天秤に乗せられてどちらに傾くかはその時次第なのだ。
感情の振り幅が大きい人は、ガタンと勢いよく傾いてすぐに大好きか大嫌いにまで達する。
逆に、振り幅が小さい人は傾きも小さいからそこまではいかず、せいぜいいいなぁどまり。
件の友人を見ていると、常に忙しなく天秤があっちにガタン、こっちにガタンと揺れているように思える。
まぁまぁ、お茶でもどうぞと声をかけたくなるけど、下手に話しかけるととばっちりを食うので静観している。
『花の香りと共に』
雨も上がったし、お日様も出てる。
こんな日はちょっとしたお菓子を持ってプチピクニックだよね。
――と、家を出たものの、強風で髪はグチャグチャ、お菓子を広げる事も出来ない。
チラホラと咲き始めた花も、今にも折れそうな勢い。
ていうか、ホントに折れた。ポッキリと。
目の前に落ちた、ふんわりした菜の花。
拾い上げてなんとなく匂いを嗅ぐ。
今日はこのまま帰ろう。
この菜の花の香りと共に。
『心のざわめき』
「よかった、約束通り来てくれて」
隣に座った人に、そう話しかけられた。
なんのことだか分からない私は、出来るだけ関わらないよう、ジリジリと体を反対側へずらす。
「去年の今日、ここで約束しましたよね。来年の今日、また会おうと」
知らない。そんな憶えはない。
誰かと間違われているのだろうか。
少し、怖い。
「憶えていませんか? あなたは忘れやすい人だから。でも大丈夫、私がちゃんと憶えていますよ。ただ、忘れられたままというのは寂しいので、少しお話ししましょうか」
そう言ってその人は、私との出会いと約束を話しだした。
聞けば聞くほど記憶になく、どう考えても私ではない誰かの話としか思えないのに、微に入り細を穿つその話は次第に私の胸に染み渡っていった。
「ああ、着いたようです。さあ、一緒に行きましょう」
この手を取れば、二度と元へは戻れない気がした。
本当に、私は約束したのだろうか。
まったく記憶はないけれど。でも――
心のざわめきを抑えながら、私はどうするか決めた。
『君を探して』
シェル・シルヴァスタインの『ぼくを探しに』という絵本を思い出す。
体の一部が欠けた円形の生き物が、自分の欠けた部分を探しに旅に出る話だ。
景色を眺め、歌を歌い、虫たちと楽しく転がりながら旅は進む。
やがて自分にぴったりな欠片を見つけた時、あることに気づく。
人は皆、なにか欠落感を抱えていて、それが時に原動力となって前に進んだりするけれど、満ち足りてしまったらまたそれを不満に思うものなのだろうな。
まだ見ぬ君を探して進み続けている間が、一番幸せなのかもしれない。
『透明』
上記の文章、読めているでしょうか?
今日は透明のインクで書いてみたのですが。