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2/17/2025, 5:31:49 AM

『時間よ止まれ』

この言葉は、「今この幸せな瞬間を留めておきたい」のか、「このつらい状況や危機を回避するため」なのかで、随分と違う。

ただ、どちらにしても思うのは、なぜ自分だけ動けること前提なんだろう?
時間を止めたら、自分も止まってしまうのでは?

こういう願いは、そもそも自分のための都合の良いものとはいえ、自分だけ時間という軛から逃れるのは、それはそれで恐ろしいことに思えるのだ。

想像してみる。
幸せで楽しい時間を止めた後、みんなが1ミリも動かない世界で自分だけが動き回る。
みんなが笑顔のまま固まっている中を、ゆっくり歩いてみる。
――怖いな。
笑顔って、止めないほうがいい。

想像してみる。
危機を回避するために時間を止める。これは有効。交通事故では片方が止まって、もう片方が動けたら位置をずらせるし、その他の事故でも使えそう。
ただ、自分がどこかから落下しているときには使えないな。周囲の時間を止めても、自分は落ち続けるのだから。

想像してみる。
つらい状況から逃れるために時間を止める。
私が時間に干渉したいと思うのは往々にしてこのパターンなんだけど、人間関係や精神的に追い詰められたシチュエーションでは、残念ながら、何の解決にもならない。
その瞬間、一時的に「待て」の状態になるだけで、そのまま私が死ぬまで時間を止め続けるわけにもいかない。
いや、それでもいいんだけど、そうするとこれから先あるだろう面白いことや楽しいこともやってこないことになる。

だからそういう時、私はいつも心の中でこう唱える。

「早くこの時間が過ぎ去りますように」

2/13/2025, 4:22:14 AM

『未来の記憶』

風が強い。
とてもとても風が強い。
強風ではなく、暴風と言っていいほどに。

こんな日は、レイモンド・ブリッグズの『風が吹くとき』を思い出す。
とある国の片田舎に住む善良な老夫婦の、核爆弾を落とされる数日前から投下後の様子までを描いた作品だ。

彼らは何も知らない。
国がどんな状況なのかも、世界情勢がどうなっているのかも。
ある日突然風が吹き、家の周囲が変わり、自分たちの体調も変わっていくことさえ、楽観的に捉えている。
穏やかで善良で、無知だ。
やさしい絵柄なのにゾッとする絵本。

こういう本やディストピアを描いた物語は、単なる空想の産物と言いきれるのか、ごくたまに不安になる。
もしかして、この中のどれかひとつでも、誰かの未来の記憶が書かれていたりはしないだろうか。

2/12/2025, 5:08:04 AM

『ココロ』

このお題を見たとき、「コロロ」と読み間違えて、しばらくコロコロ転がる丸くて可愛い小さな何かを想像してた。

妖精とか雪や雨粒、真珠や木の実。
それがコロコロ転がっている。

それからグミのコロロ。
他のグミとは一線を画す、あの食感。
薄皮のようなものをプチッと噛むと、中身はやわく少しとろっとしている。
巨峰味やシャインマスカット味だと、あの食感がよりソレっぽく感じる。

で、お題の話。
よく見たら違った。
「ココロ」だった。

そっかぁ、でもまぁ、コロロ美味しいからいっか。

2/9/2025, 9:27:37 AM

『遠く....』

いつも、ここではない何処かへ行きたいと思っていた。

上手くいかない人間関係も、失敗ばかりして苦しい仕事も、現状を打破出来ない自分も、なにもかもが嫌で、嫌で。

「山のあなたの空遠く、幸ひ住むと人のいふ」

山の彼方の、ずっとずっと遠い空の向こうまで行けば幸福があるのだと、人は言う。

それを信じていたわけじゃないけれど、こんなに遠くまで来ても幸せになれないなんて。

深くため息をついて窓の外を見る。
ここから山は見えないけれど、幸いがあるという場所はどこにあるのだろう。

「おい! 聞いているのか! おまえとの婚約を破棄する! この国から出て行け!」

まさかこんな、異世界へ来てまで理不尽な目に遭うとは…………反撃したくなるじゃない?

2/7/2025, 8:24:45 AM

『静かな夜明け』

寒かったので、ホットココアを淹れてチョコレートを一粒口に含む。

今は寒波が到来中で、今日明日が寒さの底らしい。
深夜の作業は手がかじかむけれど、この静けさはなにものにも代えがたい。

しんと静まり返った部屋の中で、ひとり耳を澄ます。
生き物たちの眠る音、夜が更けゆく音。
それを身体に取り込んで、指先から出力する。

言葉を曼荼羅のように編み上げる。

時折綻びを見つけては修正を繰り返す。
行ったり来たり。なかなか先へと進まないが、そこを怠っては目も当てられないものになるのだ。

集中力が途切れたので窓の外へ目をやる。
夜の底が白くなった――という一文を思い出す。
あれは雪国の景色だったけど、明け方の空も白くなる。
光が差し始める前のほんの一瞬。夜と朝のあわいがそこにはあるのだ。

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