Open App
7/30/2024, 12:43:43 AM

『神様が舞い降りてきて、こう言った。』

「この世界の設定温度を35℃にした。上下10℃程度は誤差の範囲内とする。随時引き上げも検討している。生き残りたければ、順応するがよい」

7/24/2024, 7:16:12 AM

『花咲いて』

二軒先のSさんは、毎週花屋で五百円くらいのミニブーケを買ってくる。
聞けば、玄関に飾っているそうな。
お手頃価格だし、週替りで気分も切り替えられる。良い習慣だと思う。

庭には、品種改良された小さなヒマワリとオシロイバナも咲いている。
そちらの方は手がかからないので、伸びるに任せて自由に生えさせているのだとか。

……それはやめたほうがいいのにな。

オシロイバナは、花が終わったらさっさと抜くことをオススメしたい。
Sさんは、恐らくオシロイバナの根を見たことがないのだろう。

驚くほど地中深くに伸びる、大きくてボコボコしたあのグロテスクな根を。

もしもタイムマシンがあったなら、あんなに茂る前に戻って引っこ抜くこともできるだろうけど。

仕事帰りに話しかけられ、挨拶を返しながら横目でSさんの庭を見る。
少なくとも5年以上は経っているな。

可愛らしく花咲くその下で、どこまで根が蔓延っていることだろう。
ちょっと想像してゾッとした。

7/20/2024, 4:38:11 AM

『視線の先には』

君は今、逃げている。
息を切らして、走って走って、時折り足がもつれて転びそうになるのを、なんとか立て直して、逃げている。

ひとけのない街のなか。
広い道路も、大きなビルも、時間を止めたかのようにシンとしている。
不思議なほど、誰もいない。

とうとう君は転んでしまった。
もう何時間も走り続けていたのだから仕方がない。
体力も限界だろう。
気力はなんとか持ちこたえているだろうか。

激しく肩で息をして、ゼイゼイと喉を鳴らし、ゆっくりと君は振り返る。

大きく見開かれる目。
信じられないモノを見たような表情。

わかるよ、わかる。
君の夢の中に入り込めるヤツがいるなんて思ってなかったよね。
だから好き勝手やってきたんだものね。

さあ、とくと見てくれたまえ!
君の視線の先にいる僕が、どんな姿をしているのかを。

7/19/2024, 7:09:45 AM

『私だけ』

暑い。
葉書を投函して汗を拭う。
ちょっと首を傾けて投函口を覗くと、もういっぱいになっているのが見える。

そろそろ、このポストも溢れるかぁ。
次のポストは小学校の向こう側だ。
「かもめ~る」懐かしい響き。
暑中見舞いの葉書、夏らしいデザインのものが毎年出ていて、良い風物詩だったんだけどなぁ。

この国のみならず、世界中が高温期に入ってどれくらい経っただろう。
もう数えるのもやめてしまった。
あまりの暑さにいろんなものが溶けた。

樹脂で出来たもの
石油から精製したもの
それから――生き物

こんなことになる前は、「暑い〜溶ける〜」なんて軽口で言ってたな。
まさか本当に溶けるとは思ってもみなかった。
目の当たりにした時は、びっくりした。

しかし、さすがに鉄製の郵便ポストは溶けてない。
強い。頑丈。
今のところ。

さて、明日は小学校の向こう側に足を伸ばさなくては。
暑中見舞いは風物詩ですから。
使命感に燃えるよね。

だって、溶けてないのは――私だけ。

7/18/2024, 2:03:34 AM

『遠い日の記憶』

一番古い記憶といわれて真っ先に思い出すのが、ひとつの風景。

大きな窓枠。薄暗い室内。
窓の外には青々とした田んぼ。
真っ青な空。眩しいほどの日光。
おそらく夏。内と外の明暗のコントラスト。

その話を親戚にすると、それは私が赤ん坊の頃住んでいた家だと言う。
田んぼの横の一軒家で、まだハイハイもできない頃、ちょっとだけ借りていた家らしい。

「そういえばおまえ、そのころ野犬に襲われたんだぞ。物音がするから様子を見に行ったら、大きな黒い犬がおまえの上に乗っかっていてな」
「そうそう、大きな犬が口を開けて噛みつこうとしてるのに、キャッキャキャッキャ笑って喜んでいて、肝を冷やしたわ」

……はて、そんな記憶はないな。

Next