【君と紡ぐ物語】
たとえば君と歩いた通学路、
たとえば僕と話した夢の話、
たとえばあなたと聞いたあの歌あの曲、
たとえばわたしとすれ違いざまに合った目と目、
すべてが小さなお話で、
すべてがだれかと紡ぐ物語。
さて、あなたはだれと日常を紡ぐのでしょう。
【手放した時間】
あのとき君との未来を諦めたのは僕だった。
君の気持ちが僕からなくなり、それが他へ向いていると知った瞬間に考えたのは君の幸せのことだった。
僕では君の幸せにはなれない…そう悟ったとき、僕は自らその時間を手放した。
僕が願うのは君の幸せ。その隣に誰がいようと、君が幸せならそれでよかった。君の幸せが僕の幸せ…なんて、まるで漫画のような独白も真実だった。
きっと僕はもう誰も愛せない。君以外愛したりもしない。
それで幸せかと問われれば、それでいいのかと言われれば―――それで幸せだから、それでいいという。
僕の幸せは、手放した時間のその先にある。
【紅の記憶】
薄紅色の吹雪のなか、あなたが僕を呼ぶ。
一面に広がる薄紅はあなたの姿を覆い隠し、その表情はおろか、その顔までもを隠してしまう。
でも…僕はあなたのことを知っている気がするんだ。
遠い遠い記憶の中でいつも僕を見守ってくれている。
そんな気がして、僕はいつもこの季節になると無意識にあなたの姿を探す。
花の影、葉っぱの裏側、大きな幹の後ろまで…。
あなたが誰なのかもわからない。本当に存在するのかもわからない。もしかするとあなたは神様なのかもしれない。なぜならば不思議と怖いとは思わずに、ただ護られているような感じが、あなたをそう思わせているのかもしれない。
でも、それでも、僕はあなたに会いたくて、この季節の満開の桜の樹の下であなたを探し続けている。
いつしかこの命が終果て、この身が朽ちて土に還っても、僕はこの櫻の樹の下で一面の薄紅色が鮮やかな紅色になるまであなたを探し続けるのだろう。
『神隠し』―――人はそれをそう呼んだ。
【夢の断片】
あなたの夢を見た。
それはハニーシュガーのようにとても甘く、
そして世界が終わってしまいそうなほど幸せな夢。
断片的な夢の中であなたは私を見て微笑み、
愛を囁き、口づけを交わし、身体を重ねた。
そして今、あなたは私の前で横たわる。
一面の紅の海で眠るあなたは一言も話さず、
絶望と恐怖で歪んだ表情のまま固まっていた。
夢が断片ならば、こちらはきっと現実だろう。
わたしを裏切り、わたしは憎み、わたしはあなたを…。
わたしは今、夢と現実――どちらにいるの…?
【君を照らす月】
雲間から降り注ぐ白い光が君の頬を照らす。
陶器のような滑らかな肌は、けれど命の色はなく。
たた人形のような美しさを保ったまま横たわる。
こんなふうに君の顔を見るのはいつ以来だろう。
見たくないことに目を背けて、認めたくないことに目を閉じて、君を振り返ることなど一度もなかった。
もしもこれが今までの罪だとしたら、これ以上の重い罰はないだろう。涙さえも許されず、悲しむことも許されず、罪は永遠に赦されない、罰に終わりなどなく、きっと私はこれを抱えて生きていくのだろう。
………それくらいに君は美しかった。
たとえ君を照らす月が隠れようと、私の罪は隠すことはできず、眼裏に焼きついた君が消えることはない。
美しき氷の花。触れれば瞬く間に溶けてしまうのならば、私はいったいどうすればよかったのか…。
その答えさえ、もう返ってくることはない。