Open App

【紅の記憶】

薄紅色の吹雪のなか、あなたが僕を呼ぶ。
一面に広がる薄紅はあなたの姿を覆い隠し、その表情はおろか、その顔までもを隠してしまう。
でも…僕はあなたのことを知っている気がするんだ。
遠い遠い記憶の中でいつも僕を見守ってくれている。
そんな気がして、僕はいつもこの季節になると無意識にあなたの姿を探す。
花の影、葉っぱの裏側、大きな幹の後ろまで…。
あなたが誰なのかもわからない。本当に存在するのかもわからない。もしかするとあなたは神様なのかもしれない。なぜならば不思議と怖いとは思わずに、ただ護られているような感じが、あなたをそう思わせているのかもしれない。
でも、それでも、僕はあなたに会いたくて、この季節の満開の桜の樹の下であなたを探し続けている。

いつしかこの命が終果て、この身が朽ちて土に還っても、僕はこの櫻の樹の下で一面の薄紅色が鮮やかな紅色になるまであなたを探し続けるのだろう。

『神隠し』―――人はそれをそう呼んだ。

11/22/2025, 12:02:59 PM