【君を照らす月】
雲間から降り注ぐ白い光が君の頬を照らす。
陶器のような滑らかな肌は、けれど命の色はなく。
たた人形のような美しさを保ったまま横たわる。
こんなふうに君の顔を見るのはいつ以来だろう。
見たくないことに目を背けて、認めたくないことに目を閉じて、君を振り返ることなど一度もなかった。
もしもこれが今までの罪だとしたら、これ以上の重い罰はないだろう。涙さえも許されず、悲しむことも許されず、罪は永遠に赦されない、罰に終わりなどなく、きっと私はこれを抱えて生きていくのだろう。
………それくらいに君は美しかった。
たとえ君を照らす月が隠れようと、私の罪は隠すことはできず、眼裏に焼きついた君が消えることはない。
美しき氷の花。触れれば瞬く間に溶けてしまうのならば、私はいったいどうすればよかったのか…。
その答えさえ、もう返ってくることはない。
【キンモクセイ】
いつの間にか香ってくるキンモクセイ。
きみと歩いた遊歩道を思い出す。
今、きみは幸せだろうか?
今、きみは望んだ道を歩いているだろうか?
語った夢は多く、笑い合うことも多かった。
もちろん喧嘩もしたし、口を聞かないこともあった。
それでもきみを想わない日は1日もなくて、
この香りを嗅ぐといつもきみを思い出す。
だから僕はいつも君に問いかけるんだ。
「ねぇ、きみは僕といて幸せかい?」
きみはただ黄金色の花の下、綺麗に笑ってみせる。
【凍える朝】
凍える朝にあなたが来る。
指先も、足先も、体の芯から凍りつき、
身動きもできず、目を閉じた暗闇の中で、
あなたの温かさだけは不思議とわかった。
さあ、その手でわたしに触れて。
あなたの熱でこの氷を溶かして欲しい。
頬を滑り、唇をかすめ、目元に触れる。
薬指を手に取り、手のひらを握りしめ、
包み込むように私のすべてを温めて。
そうすれば私の目はゆっくりと開き、
溶けた氷の雫を瞳に溜めながら、
きっとあなたを見上げるでしょう。
【そして、】
そして、誰もいなくなった…。
―――とは、なんの言葉だっただろうか?
僕はからは君が、私からはあなたから、
私からは君が、あなたからは私が、
毎日毎日、誰かから誰かがいなくなる。
だけど、それと同時に、
どこかでだれかとだれかが出会ってる。
世界とは不思議なものだ。君を亡くした私も、
いつかはきっと君とは違う誰かに出会うのだろう。
【揺れる羽根】
ひらひらと揺れる片翼の黒い羽根。
鋭い眼光と冷めた表情が美しくて、
あれが欲しい、と心から思った。
「なあ、俺たちのところにこないか?
お前ならいつでも歓迎するぜ」
会うたびに、話すたびに、誘いをかけ、
そのたびに素気なく冷たく断られ、
それでもまだ欲しくなるこの衝動は、
もはや恋なのか、執着なのか――。
ただわかっていることはひとつ、
「彼(あれ)が欲しい」ということだけ…。