イオリ

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9/23/2024, 12:18:51 PM

ジャングルジム

買ったばかりのたい焼きを、公園のベンチで、ふたり並んで食べ始めた。園内では、近所の子どもたちが遊具で遊んでいる。


あれ?

なに?どうしたの?

いや、ジャングルジムってあんなに低かったっけ?うちの小学校のはもっと高かったような気がする。

そう言われれば。あれじゃない?落ちて事故が起きたら、市の責任が〜、ていうので低いのにしてあるとか。

ああ、なるほど。

よく遊んだ?ジャングルジム。

まあ、人並みに。でも。

でも?

一番上まで登ったことはなかったと思う。

どうして?怖かったの?

まあ、それもあるけど。たぶん、そういうのは興味なかったんだと思う。

そういうのって?

一番上に登るとか、一緒に遊ぶ子よりも早く登るとか。

じゃあどうやって遊んでたの?

確か……。仰向けで真っ直ぐ横に進んだ記憶がある。

なにそれ? 彼女が笑って言った。

そんな子いる?

いるさ、日本の何処かには。僕の周りにはいなかったけど。

何やってるの?って友だちに言われなかった?

言われた。でもやめなかった。それがいいって思ってたんだ。要するに、普通のが嫌だったんだ。みんなと同じのが。自分しかやらないやり方が楽しかったんだと思う。

彼女は、ニッコリ笑った。

あなたって、子供の頃から、あなたなのね。

なにそれ、成長してないってこと?もう子どもじゃないぞ。

そうじゃなくて。

まあ、いいけど。そうだ、せっかくだから、どんなふうにやったか見せてあげようか。

僕は、立ち上がって子供たちのいるジャングルジムに向かおうとした。瞬発的に彼女が僕の腕を掴む。

おやめなさい。たい焼き、もう1個買ってあげるから。

も、もう子どもじゃないぞ。

ハイ、ハイ。


9/22/2024, 12:09:15 PM

声が聞こえる

幼馴染が、クラスの子たちと上手くいってないという噂を聞いた時。

大丈夫?

大丈夫、大丈夫。



家族の話を最近しなくなった時。

大丈夫?

大丈夫、大丈夫。



いつも通り、笑顔で答える。


『大丈夫』。幼馴染の口ぐせ。

でも長い付き合いだからさ、声の調子で、心の声が聞こえるんだよ。本当は大丈夫じゃないって。

何もできないかもしれないけど、それでも。



話して──踏み込んで一言、そう言えない自分の弱さ。

ごめんね。

9/21/2024, 12:09:36 PM

秋恋

ねぇ、花火、覚えてる?

どの花火?

西公園の。7月の。

ああ、アレね。アレがどうした?


付き合っている、とひそかに噂になっていたふたりを、面白半分でこっそりと後をつけた事がある。

あの方角だから、あそこに行くのか、いやいや、こっちの道のあの店に行くのでは、などと推理しながら、こちらも男の幼馴染とふたりで歩いた。7月末のこと。

浴衣着てるってことは、やっぱり花火か。

西公園ね。どうする。尾行はここまでにして、帰る?混むから。

うーん、せっかくだから花火、見ていこうか。

えっ?見るの?

ああ。よく考えたら、有名な花火だけど、俺、見たことない。

……そうなんだ。

あんまり乗り気じゃない?

そんなことないけど……。じゃあ行こっか。


大迫力の花火だった。日本中の花火師が勢ぞろいする、町の一大イベント。観客の混み具合も尋常ではない。尾行のターゲットのふたりのことは、とっくに見失っていた。

打ち上がるたびに、音の振動と歓声の波が、皮膚を刺激してくる。この花火を初めて見た幼馴染は、無邪気な顔で次の花火を待っている。

私はその表情を、ぼんやりした気持ちで横目で見ていた。


──ああ、アレね。アレがどうした。

あのふたり、別れたんだって。

ええっ。そうなんだ。残念だったな。

うん。それでね、うわさ、聞いたことない?

うわさ?どんな?

あの西公園の花火に行ったカップルは、必ず別れるってうわさ。

知らない。いま、初めて知った。

そっか。 そうだ。この人、昔からそういう人だった。あんまりそういうの気にしない人。

だから、あのふたり、別れたってことか?

うん。

まさか。ただの都市伝説みたいなものだろ。偶然だよ。

うん、まあそうだよね。 と、私は答えた。

っていうかさ、別れるっていうか、べつに離れてはないよな、俺たち。

えっ?

カップルとして行ったわけじゃないから。だから、別れるっていうか、離れるっていうか、そういうのもないってことになるよな。

う、うん。

それから彼は私に背を向けて少し小さくなった声で言った。

なんか、危なかったな。

えっ?どういうこと?なんて言ったの?もう一回言って。

なんでもない。トイレ行ってくる。 彼は立ち上がって部屋を出ていってしまった。


うわさを知ってて行こうとしたんじゃなかったんだ……。

少し肌寒さを感じ始めていた体が、ほんの少し温かくなった気がした。

9/20/2024, 8:42:22 PM

大事にしたい

好きです

実際に口に出した時の胸のドキドキときたら……。

でも話した言葉は、一瞬の音として生まれ、すぐ消える。

だからこそ大事にしなきゃ。

ずっと。


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大学の同窓会にて。

最後に肩を組んでお決まりの校歌斉唱。

当然、歌うのはこのときだけ。普段は意識もしない歌。

ほんの少しの間だけ、昔に帰る感覚。

すぐに消え去る感覚。残らない感覚。

だからこそ大事にしたい。


9/19/2024, 11:20:35 PM

時間よ止まれ

子どもの頃は野球小僧で、打つのが好きだった。でもなかなか打てなくて。そんなとき、止まった球なら打てる、時間よとまれと、何度も思ったものだった。

大人になったら、ゴルフだ。

ゴルフをやる人なら全員わかるはずだが、練習場ではナイスショットでも、コースに出るとOBばかり、ということがよくある。(女の子にいいところを見せようとするときは尚更)


時間よ止まれ!

あ、あれ?ゴルフボールは元々止まっているなあ。じゃあなんでOBばっかりなんだ?

どうやら僕のティーショットは、時間を止めるぐらいじゃ足りないらしい。

時間よ巻き戻れ!

もう一回、もう一回打ち直すから。次は真ん中に打つから。(次こそはあの子にいいところを見せたい)



こんなメンタルじゃあ、そりゃあ上達しないわけだ。


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