正直
正直者はバカを見る。
そう信じて生きてきたけれど、
「好きです」と言えずに黙っていた僕よりも、正直に「好きだ」と伝えたアイツのほうが君を射止め、
我慢しながら歯を食いしばっていた僕よりも、「辞めます」と去った同僚のほうが清々しい顔をして生きている。
ああそうか、他人に対して正直なのは損をするかもしれないけれど、自分の気持ちには正直でいなければならないのだ。
そう気づいたのはつい最近のこと。
時代は刻々と変わるのに、昔の人の言葉をよすがにしていたとは、自分はなんてバカ正直だったのだろうかと。
【天気の話なんてどうだっていいんだ。僕が話したいことは、】
「明日は晴れだって」
君が笑う。
「そうなんだ。よかった」
相槌を打ちながら、僕は全然別のことを考える。
君と話したいのは天気のことじゃない。
僕たちの明日のことなんだ。
すると君は言った。
まるで僕の心を見透かしたみたいに。
「ねえ、こうして一年後も、十年後も、二人でお天気の話とかしていたいね」
「えっ、それってどういう……」
言いかけた僕の唇に君の人差し指が触れる。
「わかんないの?」
いたずらな微笑み。
ああ、もう。君には敵わない。
きっと一年後も、十年後も、ずっと。
ただ、必死に走る私。何かから逃げるように。
急げ、急げ、走らなきゃ。
苦しくても、辛くても。
どうしてそんなに走るのかって?
だって、後ろから追いかけてくる。
誰かの視線が、揶揄する言葉が。
あいつはダメだ、怠けてるって、たくさんの見知らぬ顔が、剣や槍を構えてこちらに迫ってくる。
走るのをやめたらきっと、私は刺されて死んでしまう。
それならば走り疲れて死ぬか、自ら命を絶つほうがいい。
そう思いながら、今日もまた必死に走る。
何処へともなく。
「ごめんね」
ごめんね、今まで嘘をついていたの
あなたのこと、ただの友達としか思ってないなんて
本当は恋い焦がれていたのに
ずっとずっと大好きだったのに
素直になれず、怖がりで
本当のことが言えなかった
あなたがこうして
手の届かない遠くに行ってしまうまで
半袖
いつもきっちりジャケットを着込む君が、クールビズだからと半袖を着てきた。
「変かな?」と聞かれて
「変かも」と返してしまった。
ああ誤解しないで、変なのは私のほう。
白いシャツが、健やかに伸びる腕が眩しくて、なぜだか頭がクラクラする。
今日は真夏日でもないのに。