「幸せとは、星が降る夜と眩しい朝が繰り返すようなものじゃなく」
「ん?」
僕の好きな歌なんだ。続きの歌詞を当ててみてくれない?──そう言って彼は微笑んだ。頬杖をついた彼の瞳はぐずぐずに煮詰められた砂糖菓子を溶かしているかのよう。
「う〜ん、なんやろなぁ」
うーん、うーん、僕は唸って考え続けた。
「……僕にとっての幸せってなんやろな」
制限時間はあと三十秒ね。彼は楽しそうな顔でカウントダウンを始めた。
「ほら、早く早く〜」
二十五、二十四、二十三……
「ごはんをいっぱい食べること」
「ブッブー。違います」
十九、十八、十七、十六…
「けっ、健康に生きること!!」
「ブー」
「好きな人と暮らす…とか?」
「…ブー」
十、九、八…
「ずっと笑顔で暮らすこと…?」
三、二、一、零。
「…多分ブッブー」
「おい自分、多分ってなんやねん」
僕がそうつっこむと彼はぷは、と息を吐き出して笑った。
「ごめんごめん、実は僕も歌詞忘れちゃって」
「はァ!?何のためのカウントダウンだったんや」
「んふふ」
文句のつけようもないくらいの満面の笑みで彼は微笑んだ。少し狡そうに、企んだ顔で。
「健康に、笑顔で、好きな人とずうっと暮らせるといーね、〇〇くん」
その笑顔に何も言い返してやることのできない俺は、頸が熱いことをひしひしと感じながら、照れ隠しに俯くことしか出来なかったのだ。
backnumberさんの『瞬き』という曲が真っ先に思い浮かびました。
私の作品を読んだ方は分かると思うのですか友達以上恋人未満みたいな関係の男性同士のブロマンスがとても好きなのでどうしても思いつきでそんな感じになっちゃいます許してください!!!!
あと今回は私が関西弁が好きなのでエセ関西弁を書きました。
日の出、なんて言葉は、日が沈んでしまうからあるんだ。けれど、一日も日が沈まない場所があることをご存知かい?僕はそこへ、行ってみたいんだけれど。
「馬鹿な。ここは×××だよ。日は落ちて沈み、そうして昇り続けるんだ。これからもね」
それに僕たち、ここからは出られないでしょう?
続けてそう言うと、彼は明らかにしょんぼりとした声で、外へ出てみたいなあと吐息をふうと絞り出すように呟く。
「あ、そうだ」
この真白い部屋の中には、ひとつだけ小さな小さな窓があるね。背伸びをして、覗くのだ。そうすると、小さな小さな、水溜り程の池が見えるね。では、其処に映った、太陽を、見ようではないか。
「いいね。乗った」
彼はそう言うと、窓の方へ走った。その窓はひどく小さいのでひとり用だ。僕は彼の背中を眺めた。小さい身長で、懸命に踵を上げて彼は窓枠に手をかける。
「わあ」
彼は小さく声を上げた。太陽が昇るだけのことに、あれだけ感嘆の声をあげられるとは。その純粋な姿は僕にとってあまりにも眩しくて、少しだけ羨ましい。きっと彼が、白く輝く水面に映る、灼熱の光を、見ていることも、少しだけ、羨ましいのだ。
「僕にも見せてよ」
いいよ。そう言って彼は一度外を見たまま、瞬きをした。振り返って僕を見たその瞳には、未だにその輝きが幾分かの煌めきか残っている。
僕は窓枠に駆け寄って、窓の外を見た。水面に映った眩いばかりの太陽を見た。ちょいとこれは、僕にとっては眩しすぎる!
「……目が潰れた」
「ええ…」
僕はあまりの眩しさに、目を瞑りその上から手のひらで覆った。瞼の裏に痛いほど光が焼き付いている。 その姿は、死ぬまで忘れられそうにない。
「いつか君と一緒に、外で太陽を見たいものだ」
「…うん、そうだね」
僕たちは、厳重に外から鍵のかけられた何にも無い白い部屋で、また他愛のない一日を過ごすのだ。
《2.日の出》
一次創作のひらめきを得るためにこのアプリを始めたのですが、私はこういうよくわからないふわふわ浮いているお話がどうやら好きみたいです。思いついたまま走り書きで10分くらいで書いています。
考察妄想は皆さんに任せることにしたいと思います。読んでくださりありがとう御座いました。
今日このアプリを見つけました。ちょうど新年のはじめに見つけられて嬉しいです。
色々忙しいですが一日一個書けるように頑張ろうと思います〜!!!
新年にもなったことだし、今年一年の目標は?なんて声を掛けられた。
「う〜ん。……健康に生きること、だな」
「なんだか味気ないですね。ほら、もっとなんか、ないんですか?宝くじ当てるぞー!とか、億万長者になる!とか」
「…っはは、なんでお前は金のことばっかり」
「あっ、そうだ。今年こそ恋人ができますようにー!とか。そういうでっかい抱負はどうですか?」
「うるせぇぞ」
口に咥えていた煙草の苦い煙を吐き出し、それを灰皿に擦り付けた。ざりざりとした灰色の粉が押し潰れ、鼻腔に残るほろ苦い味になんとなく顔を顰める。次の一本に手を伸ばしたところで、箱の中に残る煙草はそれを含め残り二本だということに気が付いた。
「チッ。煙草切れちまうな」
「健康に生きるって言っておきながら煙草吸うってどういうことですか?」
彼は首を傾げ顔を覗き込んだ。「最後の一本にしてくださいよ」そう言い煙草の箱を俺から奪い取るように掴もうとする。
「良いじゃねえか別に。お前、部屋が煙ったいのも分かんないだろ」
「違いますよ、僕が言いたいのはそういうことじゃなくて」
彼の指先は、煙草の箱をする、と通り抜け、掴むことはなかった。部屋に立ち上る白っぽく濁った煙と彼は瞬く間に一体化する。
「キミが、早く死んでしまったら、悲しいでしょう…その、僕は、部屋に、ひとりきりになるわけですし…」
「……バーカ」
俺は箱の中の、最後の一本に手を伸ばした。ライターの火を近づけ大きく息を吸い、自分の肺を黒く汚しているであろうその煙に酔いしれるように、肺いっぱいに溜め込んだ。
「俺が死んだら違う所に取り憑きゃいいだろが」
「嫌ですよ」
「…お前がなんで俺に固執すんのかは知らねぇが、まァ…」
大きく息を吐き出した。白煙が部屋の中に立ち込める。生意気で、頑固な幽霊に、煙を吹きかけてやった。
「俺が死んだら、お前と一緒に彷徨ってやるよ。だから精々、俺が死ぬまで取り憑いてろ」
俺のこのボロ臭い部屋に長いこと居候している幽霊は、眩いばかりの星空を眺めるように俺を見た。俺はそんな眩しい笑顔、向けられるような人間じゃないんだけどな。
いつ年が明けたかも解らずに、一人の部屋で煙草をふかす孤独よりかは、今の方が楽しいのかもしれなかった。
《1.新年》