約束だよ。
理科室に入ると、アルコール薬品とマッチの消えた残り香が溶け込む雰囲気に囚われる。
整然と仕舞われた試験管、ビーカー。カシミール地方のように厳重に施錠された化学薬品棚。上下に移動する黒板。机、椅子、白い布で隠された顕微鏡。使ったことがある水道と、使ったことがない水道。ほこり臭い、カビ臭いにおい。
あそこだけ、教室とは違う世界観で動いているような。
一歩入る行為、それが誓願に似た何かを意味する。
授業だからという約束の元、縄張りに入ることを維持的に許可されているようで、本当は隠し階段のような目線で主は監視しているような。そんな不穏な気がするのだ。
傘の中の秘密。
傘の柄と言えば、外側の布地を想定するが、別に裏地にデザインがあってもよいのだ。
外側と内側。同じ色、同じ布地、同じデザイン。
揃える必要のない遊び心が、日常を彩る。
そういうアイデアから商品が作られたのか、そういう傘を見たことがある。
傘を開けば自分好みの世界。見た目はただの紺の傘だが、裏地にはいっぱい推しのキャラがプリントされている。
傘を開けば、推しに会える。そういう風に、身近に寄り添う商品を思いつけるといいなって思う。
雨上がりの匂いのことを「ゲオスミン」と呼ぶ。
自然的由来の地面から空気中に発散される匂いのことで、地上のエッセンスとか言ったりする。
ただ、雨季になると、このゲオスミンは、どうやら蚊を引き寄せるようで、夏前に向けてこの匂いに寄せられ、卵を産み付けようとするらしい。
それはちょっと嫌だなぁ。
僕的に混同しやすいのが、ペトリコールと呼ばれる奴だ。毎回ゲオスミンなのかペトリコールなのか迷ってしまう。「ペトリコール」とは、雨の降り始めに感じる石のエッセンスのこと。
どうしてこれらの単語を覚えているのかって言われると、そういえばどうしてなんだろう。忘れてしまった。
雨季といえばの6月なんだろうけど、ここ数年の梅雨は空梅雨の記憶しかなく、ちゃんと降るんだろうかって思ったりする。
雨上がりよりも、降り始めに気を付けようとする目線。職場ではそろそろそろりと冷房をつけ始め、お腹が冷えてしまってお腹炒めになった2025/06/02。
勝ち負けなんて、この世の中には不必要なものなのに、どうしてか心の自分は人と比べたがる。
そんなことをしても卑屈になるだけなので、ここ半年はしろ◯んを召喚することだけを考えている。
だから、最近の僕は、活動的だ。
国語力が増量したのか、ちょいとムズい哲学の概念を読めるようになってきた。ような気がする。
他人の目なんて気にするな。
そういう言葉が他人を作り出そうとしているのだと、思えてきた。最高なのは、没頭なのだ。最近読んだ本でそういうことを述べていた。
そんな言葉、定義する間もなく夢中になれば、人と比べることなんてない。
勝ち負けも、後出しジャンケンのようにやってくるのだと、自分で気づく人はとても限りなく低いだろう。
まだ続く物語。
コミュニケーションがうまくいかないことがあった。
僕は相談する側で、相手はいわゆるお悩み事を聴いてくれる人。
「〇〇に困っているんです」
と、僕は話しているんだけど、相手が傾聴せず、都度質問して話の腰を折る事が多々あった。それが質問の意図がよく分からなくて逆に「え、なんでそれを聞くの」となる。
僕としては、相談時間が1時間という限られた時間の中で収めるために、悩み事の枝葉を切り落としてきている。幹の部分を相談しようとしているのにな。
でも、相手はなんか、切り落とした枝葉の部分が気になるのかな? みたいな。
あっという間に1時間。枝葉に気を取られ、幹まで行かず。まだ続くのかこの流れ。
「うまく行きませんでしたね」
と僕は言った。彼女は言った。
「でも今日は、引き継ぎみたいなものですから」
前の相談員の人のほうが良かったなぁ。
でも、悩み事が尽きない道の、道案内。
うまく行かないなあ、ではなく、コミュニケーションの練習だと思うことにしている。
コミュニケーションで問題発生する定番は、質問の意図が分からない。話の方向性が脱線事故。傾聴しない。
全部起こっているのは奇跡ではないか。
僕は奇跡を見ているのだと思って、折りたたみ傘を広げた。バキッ
「あっ」
壊れた。
長年使っていたからなぁ。修復不可能な壊れ方をしたので、どうしようか。
ユニクロに行こう。そう思って新しい折りたたみ傘を買った。
最近は日傘にもなるし雨の日でも使える折りたたみ傘が売ってるんだ。遠近両用メガネみたいだね。