秘密の場所にも白いものは降り積もっているのかな。
空から落ちてくる大粒の雪を眺めて、自分だけしか知らない場所を脳裏に浮かばせている。
秘密の場所――それは、人それぞれに思い浮かんだかすかな記憶。
誰も使わない歩道橋の下。
がらんと人気のない音のする校門前。
昭和の地主が死んで土地だけ残った畑。
森。林。神社。
大きな石に奉る注連縄。
この中にはね、神様が宿っているんだ。という。
その理論からすれば、きっと空にだって神様は居るはず。この雪を降らせたものは、きっといる。自然と落ちてきた……わけではない。
明日から春の陽気が来る。
だから、この雪は名残り雪となるだろう。
日が変わる夜になれば止み、朝方には降り積もった白いものは儚く解けていくのだ。
風が運ぶものは見えない。
香気を感じるために、何が溶けているのかと目を閉じてみた。
「大いなる遺産、かな」
日が落ちるのを当たり前だと思えるような人物にはなりたくないなぁ、と目を開けると、べつの世界からやってきた風がやさしく肌を撫でる。
Question。
僕の書く文章は「読みやすくてむずかしい」らしい。
断っておくが、このアプリのことではない。
ここで書いたものをとあるサイトに転載しているのだが、ここの利用者層とは年齢層が違うからこうなっている。図書館と学校くらい違う。
図書館のように、大人がおとなしく文章を読んでくれる聞き分けの良い子どもではないのだ。紙の本をそのまま、ではなく、わざわざデジタルにして、電子の海に溶け込ませて、電波にして。イヤホンジャックで耳をジャックして、私的ジャックしなければやっていられない。そんな飛行機のように平べったい学タブで、親とネットの監視をくぐり抜けて、ネットワークをハイジャック。あとで怒られろ切り裂きジャック。
おっと、飛行機のように脱線してしまったな。
大したことではない。時速500キロ以上で空の旅をお送りする程度。10秒で1キロ位離れてしまうフルスロットのスピードでもさしたる問題でもない。こんな感じだろうか、読みやすくてむずかしいとは。何言ってるのかわからない。そういうことらしい。
読み手が小中学生では、9段階くらい異なるだろう。
単純に学年で分けた。ピカピカの1年生からズタボロの6年生。それから義務教育最終学年まで。6年生はズタボロではない? 君たち、中学受験をご存じで。
天は二物を与えない。学タブを授ける代わりに苦難の道を与えなすった。そういうことで納得しよう。
読み手の区分はそれ以降も続いているのだが、学タブにおける義務教育テストの範囲外になるので勘案しないことにする。特殊相対性理論のみを考える、という意味だ。分かるな?
さて、ここまで多いとギアと呼んでもいいのではないか。走れメロスの読解問題はどうやって潜り抜けたのか。疑問だ。邪智暴虐たる王の、なんかよく分からん癇癪を、ストレスMAXで我慢したのだろうか。
古文とか、あるだろう中学で。アレより、簡単な文章を書いているつもりなのだが……、僕はとても疑問だ。
太宰治、夏目漱石、瀧廉太郎。
この人たちのこってりラーメンみたいな文章に比べたら、僕の文章とかあっさりめん太郎だ。
さて、先ほどの三人には仲間外れがいるらしいな。どうでも良い問題か。現代では仲間外れなど、そう珍しいものでもない。
そのようにして、読み手が読み手のように、いくらでも解釈すればいいじゃないの。
と突き放してみる。すると、読み手は9段階に分かれるだろう。そんなわけで、さて。僕は飛行機に乗って外国に高飛びでもしようじゃあ、ないか。
眼下にネットの海が見える。きっとそれは沖ノ鳥島。
絶海の孤島で繰り広げられる9段階の糾弾会の、始まり始まり。主催者の気分で味あわせてやるのさこうやって。
約束の薬草を焼くそうだ。
村長が言うには、これで約束を破ったことになるそうだ。
「すまんな、英雄よ。村を、守るためには、こうするしか……」
そうして薬草に火を灯そうとした。しかし、それは燃えることを知らない。
村長はガクリと膝から崩れた。
「約束を破ることができないのなら……」
自害しようと首を掻っ切った。草だけ残され、雑草と混じった。
そのような理由により、約束の薬草は赤い色をしていた。明治時代の廃仏毀釈政策で廃寺となり、約束の詳細は敷地内を泥棒に荒らされ散逸してしまった。
末裔であるが、約束の者が訪れた。
この時代、出迎えてくれるものはいない。それでも良い。好都合だ。この到来を待っていたのかもしれない。
どこか日本風で、スラリと髪の長い彼女だった。
しゃがんで、植木鉢に約束の薬草を移し替えて、それから持ち帰った。
彼女は薬屋であった。薬屋に化けた化け狐。依然村長に助けられた女狐の子孫であった。
ひらり、ほらりと白いもの。
シャーベット? ダイヤモンドダスト?
それとも天使の涙?
どのように例えよう、粉のように小さき雪を。
天寧の空に手を伸ばす王女。
この上ない喜びの表情で、久しぶりに見る天然を掴もうとする。軽い、軽い、掴もうとしても、彼らはひらりと身を躱す。
掴もうとするから取れないんだ。
王女は自分の手を制止して静止させた。
ひらり、ほらりと白いもの。
風に飛ばされた婉曲的恋愛の軌跡。
妖精のように、自由の翼で彼女の手のひらへ。
着地した。それをそっと、口の近くに持ってきて、ふぅっと吐息を投げかけた。
小さな小さな氷の粒は、溶けることなくそのままでいた。
どうやら雪ではない。たぶん、花粉。
彼女は花粉症。この城も花粉症。この先も世界は、宇宙は、ずっと花粉症。
――この花粉はどこから来たのかしら?
たぶん、いや、おそらく。
彼女の心の中は本音を炒めた。
この城の主である王子は、ずっと前からいない。
王女は魔族の王女であった。心の中のように、ずっと前から平和を標榜として、孤閨をかこっていた。
だからずっと花粉症なのだ。
鼻水が目から出てしまって仕方がない。