冬になったら、ホカロンに振り回される。
ホカロンとは何か。
一応書いておくと、カイロのことである。
僕は、冬の終わりかけになると、コンビニの20%から30%ばかり安くなったホカロンたちを買い占めている。
「ふふふ、冬は毎年来るんだぞ。な~にが今年で終わりそうな雰囲気出してる。来年の冬に備えていると思えば、割引ってお得だろっ」
と思いながら、カイロの在庫処分に貢献している。
春夏秋とカイロを眠らせて、満を持して押し入れから取り出す……ということを毎年予定しているがイマイチタイミングの機会を逸している。
冬とはな、突如来るんだぞ。
冬になったら、とか考えているうちに、今日来ちゃったのだ。
家にテレビとかないから、天気予報なんてスマホのホーム画面にあるアプリをさらりと見て終わっちゃう。
アプリも開かずに「14℃」という数字を見て、
「ああ、現在の最低気温は14℃なんだな」
とか思っちゃう。
実際は最低気温は4℃って書いてあった。
昨日と同じ秋の陽気だと思ったのに……さむい!
ヒートテックなし、防寒着なし。
体感してさむいってなったんだけど、
「まあ、行けるだろう」って最初は思うんだな。
室内の温かい空気を纏っているから。
でも、その衣が剥がれてきて、もう引き返せない段階になると「寒い!」ってなる。
風よけのない駅のホームで特急電車の通過待ちで待っていて、特急が来て、冷たい風がぶわんとやって来た。
「うわああ、さむいいい!」
いつもはやらない腿上げとかをやったり、奇妙なダンスを踊って身体を動かざるを得ない。みんなはいいよなっ、防寒着着てさ。僕は、僕は……くよくよ。
などとしてた。
そんな朝の寒さから10時間後くらい。
予報では11℃と書いてある。えっ、である。
えっ、朝よりももっと寒いの?
愕然とした。戦々恐々とした。
どうして、どうしてヒートテックを着てこなかったのか……。
そんな帰宅の風を受け、やむなくコンビニに赴いて、ホカロン(貼るタイプ)を1枚買う。
すぐに貼ってしばらくする。
お腹あったまってきた。
お腹をさすると、こたつにぬくりたいって言ってます。
はなればなれになっている本館と別館。
その塊よりも遥かなる「はなればなれ」となっている一軒の小屋。
忘れ去られているように佇んでいるが、のれんは掛かっている。小さい建物ながら、当時はここが本館だった。
現在の本館は平地の方へ移されていた。
より近い方が交通機関のアクセスが良いといって、移転と建て替え工事がなされたのである。
公共事業とそれに類する大手建設業者たちによって、ここら一体を都市計画事業として施工した。
そんな難しいことを村役場の者たちが言って、誘致した。それから暫くして、田舎のだだっ広い土地にホテルのような瀟洒な建物を2棟も建てたのだ。
きれいなホテルと、古くて趣がある宿。
都会から来られた客たちは、最初の方は宿泊率は半々だったが、徐々にこの国が豊かになり、都市が散らばるようになってきた頃には、鉄道に近い本館と別館……新館ばかり利用するようになった。
宿のほうが源泉に近く、源泉かけ流し温泉と銘打って、見晴らしの良い展望が望めたが、窮屈な客室と、質素な料理。それに宿屋にたどり着くためには、曲がりくねった山道を登らなければならぬから面倒ということで、新館のほうに軍配が上がっていった。
現在は、宿の者も新館の方に移り、商売をやっている。
しかし、最近その建物を建設した大手建設業者の雇用形態がブラックであると判明し、瀟洒な新館に泊まることを客が嫌煙するようになった。
原点回帰が唱えられる時流となったのだ。
さすがの大人数を宿泊させるには手狭であるので、いっそ一晩貸切という風にしてみた。
すると、利便性を好み運動嫌い山道嫌いの都会人の客足はほとんど滅したが、一方地元民が懐かしがってその宿に足を運ぶようになった。
豪華な料理は提供しなかった。
質素な食卓。
敬語のない、方言の飛び交う会話。
客をもてなす、まだ腕は白い女将。
食べ終わったカニ。小皿と鍋。
はなればなれが一気に近づいた時。
子猫の写真でも見るかとなっているわたくし。
今日は土曜日。横になっています。
今週風邪を引きましたわたくし。
だから、平日は休めなくて土曜日の午前でクリニックに行ってオクスリをもらいました。
咳、痰、鼻水、鼻づまりと、風邪症状のリーチをやっているわたくし。これで発熱が無いのはギリギリアウトということです。
そんなわけで処方箋をもらって薬局に行って、会計していたら、いつも貰ってるジェネリック医薬品が品切れ中とのことで、先発品になってしまいました。
「薬の供給が止まってるんですか?」
「止まってるというか、あの、メーカーに発注をかけてるんですが、それが届かないということでして……」
それを届かないというのではないでしょうか。
よくわからないので僕は寝ます。
子猫関係ない……。頭働いてないから仕方なし。
ニュースで見た限りだが、総辞職して次期首相に任命されたとき、その当人は居眠りをしていたという。
原因はあの体型だから睡眠時なんとか症候群で居眠りをしたとか、ナルコレプシーだからどうだという説が囁かれている。
病気ならアレだけど、こういった説もある。
朝、風邪薬を飲んだので、つい眠気が出てしまい、国会で寝てしまったとのこと。
これも「スリル」だよなあ。
肝が据わってるというかなんというか。
飛べない翼すら持っていない地球は、今日もぐるぐる回りながら太陽の周りを回っていた。
これはある意味では、宇宙を飛んでいると言える。
「ねぇ、どうして回っているの?」
遥か彼方から飛来してきた小惑星114514号は、地球のすれすれを通り過ぎた時に尋ねた。
「それは暇だからですよ」
地球ではなく、月が答えた。
月もまた、飛べない翼すら持っていない。
「暇すぎてわたくし、地球の海の高さも調節しているんですよ。干潮と満潮というでしょう?」
「なるほど……。でもその答え、はぐらかしてるよね。暇だから回ってるって。暇だから他のことしてるってことになるじゃないですか」
「なら、これならどうですか? 忙しいからですよ。
わたくしの干潮と満潮は、毛づくろいみたいなものです。地球は回っていて忙しいから、わたくしが代わりに毛並みを……、海並みを整えてあげてるんです」
「う〜ん、なんかしっくり来ないなあ……」
しかし、タイムリミットが来てしまった。
0.00000001 秒の刹那的短時間通信速度では、この程度の会話がやっとである。
小惑星114514号はそのまま遥か彼方へと飛んでいってしまった。
もう二度と地球には会えないだろう。
「まったく、きりがないですね……」
月は、適当に、ぐるぐる回りながら嘆きの呟きをしていた。
「まったくどうして地球に会いたがるんでしょう……」
月は、彼方から訪れる小惑星の列を見やった。
地球は大人気である。
白い雲は、白い翼のように見える。
包まっている姿は、今こそ飛翔する瞬間……。
そんな誤解で生まれた噂は、全宇宙に広がり、小惑星たちがスレスレで飛んでくるようになった。
その結末を知っていたら、誤解を解こうと奮闘したのに……。
過去の自分の過ちは、月の凸凹をみれば一目瞭然。
有名人の隣人は迷惑被る。今は飛べない翼こと白い雲から、いかに飛べる翼を作ることだけを考えている。