22時17分

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7/29/2024, 7:16:46 AM

お祭りの最中のようだった。
自分を中心点として、半径数百メートルは自分の領域であると錯覚できるほど。闘争心の焼却具合である。
自分に近づく、ありとあらゆる者どもの駆逐するためのキャンプファイヤーの熱気が。
獰猛な突進をする野生のイノシシのような。
そういった熱気。温度。空気感。
それを心に感じる。
速く速く速く。
焼べなければならない。
逸る気持ちを押さえて、燃焼スピードだけを早める必要がある。

一方、辺りは静かなように思えた。
当然だろうか?
そうだ。
誰に言われたわけでもない自問自答。
意味不明な思考の暴虐。
慌てるな。
乱心具合。胡乱な目つき。
超過する集中力。溢れそうになる。
標的は一つのみである。
気を散らせる必要はない。
必要のない不要。
確認するまでもない不要。

他はどうでもよい。
その通りだ。

手首の動きを確かめる。
可動域はどうか。最大限の駆動感はどうか。
手首パーツのひねりはどうか。
それらを確かめるように、こきりと関節の音を唸らせて、精査する。

――いまだ。

彼は水音すらもなく、ポイを沈めた。
獲物である赤いヒレを透過するように、水面下ですべてを捕らえるかのように。
ポイを沈め、ひょいと持ち上げる。

7/27/2024, 1:51:47 PM

神様が舞い降りてきてこう言った。
「誰か金を恵んでくれませんか?」
「え、神なのに?」人間は逆質問をした。
「人を救おうと、天から降りてきました。しかし地上では何やらお金というもので取引をしていますね」
「え、神なのに?」
人間は今さら何、みたいな言い方をした。
「それでまずは人の生活を間近で見て眺め、問題事を見出してやりたいと思ったのです」
「え、神なのに?」
人間は神を全知全能だと思い込んでいた。
喋ってみればなんだ、丸っきり無知じゃないか。

「今まで無関心だったのです。人間を作った後、疲れてしまって。だから、贖罪の意を込めて一から学ばせてください」
「……ショクザイ?」
「はい、贖罪です」
人間は返す言葉もなかった。やがて、
「ところで、今のあなたは神なのですか?」
「精神は神ですが、この身体は人間です。だから――」

次の瞬間、銃声が一発轟いた。
神様の頭に命中し、血しぶきをだしながら絶命した。
人間はひと通り死体を確認するも、やれやれとかぶりを振った。
銃声の正体は知っていた。

「おいみんな、自称神様の死体が獲れたぞ。どうする」
後日神様は、神様の供物になった。
神の言った通り、贖罪はショクザイとなったのだ。

7/27/2024, 9:11:16 AM

誰かのためになるならば、あとで書くことにする。
今日はとても忙しい。

7/26/2024, 4:36:17 AM

鳥かごほど空洞なものはない。
紡錘形の金網で、高さは50センチメートル。
生きた内容物が逃げないよう、隙間のあって、しかし逃げ場を許さない金属の細い棒がかごの周りを囲む。
中にはヒノキの木の太い台が組み込まれている。
外側に開く小さな扉がついていて、かごのてっぺんには小さな輪っかのついた構造だった。

しかし、もはや打ち捨てられたゴミである。
終末病棟の患者のように、かごの格好は横に寝転んでいる。
主はもういない。ゴミだからである。
主の主もまた、この街にはいない。

この街が廃街となって30年は過ぎようとしている。
理由は不明だが、人間たちが避難した主因の輪郭は、立ち込める自然の力によっていくらか推察することができる。
どこもかしこも家は廃屋となり、平らな道はどこにもない。道はひび割れ、小石にまで頽落している。
時折山からイノシシが降りてきて、いたるところでクソをして、それを放置するという。追い払う者がいないということだ。

主がいなくなったあと、ごみとなった鳥かごには幾つもの不法侵入者がかごの中に居座った。
ヘビ、カマキリ、アリ、リス、ノラネコである。ノラネコが一番期間が長かったが、死期を悟ってどこかへ行ってしまった。

かごの中の木の台座も、それらによる粗相で、今はもう木の破片となり、表面は黒く焼け焦げたようになっている。
防水のワックスは剥げ、触ることを消毒する事も躊躇うほどのおびただしい虫のついた安息の地となっている。

かごは、ゴミ捨て場に捨てたようなのだが、不法投棄しても問題ないほど様変わりしている。
アスファルトは腐り果て、地中から何かしらの植物が生え、緑のツルの侵略をされている。
そこに投げ捨てられた鳥かごは、今や路傍の石よりもはるかに目立たない金属片となっていた。
かろうじてかごだったという形を残すのみである。

この町はもう死んだと同然のものであり、人の姿は一人もいない。時間もまた死んだようで流れていない。
空気は淀み、天気も崩れぎみで、湿度も気温も不快感の先鋭化となっている。
居心地は悪い。不衛生なほどである。

遠くから小鳥たちの鳴き声が春の訪れを予感させている。巣作りのための材料を探している気がする。
小隊を組むように、そのものたちは、鳥かごだったものの近くに降り立った。
横になったかごの上に乗って、ツンツン、と短いクチバシで足元の具合を確かめる。

もはや金属としての抵抗はなく、卵の殻にひび割れるように。金属の細い棒はひん曲がり、やがて折れた。
その幼い攻撃により、紡錘形の形を失いつつあった。
一部をクチバシで取り上げ、小鳥たちは周りの様子を然として確認。そして飛び去っていった。
穴の空いた鳥かごは、まだ形を失わないで残っている。

7/25/2024, 4:34:58 AM

友情で脳を巡らせてみたら、太宰治の書いた『走れメロス』がヒットした。

メロスが激怒して、邪智暴虐たる王を許せん。
と直談判するも引っ捕らえられ、王殺し未遂でメロスは死刑になる。
ちょっと待ってほしい。
今死ぬのはいいけど、もうすぐ妹の結婚式があるんだ。
3日後の日没後までには戻るんで、と王に言って待ってもらうことにしたけど、王は嘲笑する。

「ふはは。貴様、死ぬために戻ってくるという戯言、誰が聞くんだ。そのまま逃げる気だろう」
と王は人の心が信じられないので、メロスは、
「じゃあ俺の代わりにセリヌンティウスを置いておきますんで」
と、メロスは全力疾走した話だ。

某フリーアナウンサーが、
「少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も速く走った。
 とありますが、このときのスピードを計算したら、マッハ11。メロスは100mを0.02秒で走ります」

と、『走れメロス』の比喩の面白さについて語った動画を見かけたことがある。
なんだ、やればできるじゃんメロスって。

しかし、どの学年の時に習ったか忘れたが、いまいちしっくりこないストーリーだ。
メロスが本気を出せば済むとはいえ、普通に考えると、妹の結婚式がもうすぐそこまで近づいているのに、王を殺しに行くだろうか。

メロスがキレちゃったんだからしょうがない。
になると思うけど、普通に考えたら、妹の結婚式を終えてから、「さあ、殺しに行くぞ!」と我慢すればよかったのに。
友のセリヌンティウスじゃなくて、そのへんのホームレスみたいな、いのちの軽い人を置いておけば、あんなに苦悩して走らなくても。
みたいな、国語の教科書をなんだと思ってるんだこのクソガキは、くらいな事を思っていた。

でも、そんな物語、読んでて別に面白くない。
妹の結婚式前後で全力で走るから面白いんじゃないか。
メロスに論理的思考を求めるな。
メロスが我慢強くて、計画的に王殺しを決行したら、単なる殺人鬼になってしまう。

そう思って太宰治はおよそ現実から遠ざけた異質空間を作り、妹の結婚式直前なのに、メロスが激怒しちゃって死刑になっちゃう、という理不尽なストーリーをメロスに与えたのだろう。

このときのメロスとセリヌンティウスの関係は、読み終えれば固い絆で結ばれてたんだなってわかるけど、友を人質にするというメロスの思考回路は、読者にはよくわからない。

邪智暴虐たる王のように、このときの読者もメロスの気持ちがよくわからない。
なんでメロスは友を人質にさせたのか。
セリヌンティウスもセリヌンティウスだ。
「すべてはメロス様の仰せのままに」
と、歴戦の人質の姿勢のまま磔に掛けられる。
なんだコイツらである。なんでコイツら、人のことをそうやすやすと、信じられる?

メロスは走り、都市から離れていく。
往路はそこまで描写は少ない。結婚式に間に合えば良いから。
復路からが本番だ。走ったり立ち止まったり、野盗に襲われたりして、なんで自分がこんな災難を……、という苦悩が描かれる。
これは、 

 メロスが友のために走る
=自分が死刑になるために走る

からで、メロスだって死刑は不服だと納得していない。
別に帰らないで裏切ることはできるけど……、
でも! 走らなきゃ!
と、メロスはサイヤ人になって『走れメロス』になる。だから「少しずつ沈んでゆく太陽の、十倍も速く走った。」のである。

どうして一生懸命走るんだ。
死刑なんだから戻ったら死刑執行されちゃうんだぞ! 
でも、セリヌンティウスが!

という忠誠心に似た絆か友情か。
どっちか知らんけど、ようやくこの辺になって読者にもメロスとセリヌンティウスのただならぬ友情が垣間見えるようになる。
本文にはまったく書かれていない、
「普通の説明ではおよそ見当もつかない二人の長く古い絆」が感じ取れるようになる。

途中「もう間に合わないよ!」と誰かに言われようと、
「うるさい! 間に合う間に合わないの問題じゃない! 人の命が掛かってるから走るんじゃない! だって、セリヌンティウスが信じてるから!」

という、人を信じる力で理不尽に打ち勝とうとする人間を描いたのだと思った。
友情って、裏切られる可能性があるけど裏切らなかったっていう、人には見えないものなんだろうね。
「俺の代わりにセリヌンティウス置いていきますんで」
じゃなく、
「俺の代わりにセリヌンティウスという命以上に大切なものを預けますから」
という、そういったメロスの真剣味が、読み進めるごとに分かる仕掛けになっている。

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