鳥かごほど空洞なものはない。
紡錘形の金網で、高さは50センチメートル。
生きた内容物が逃げないよう、隙間のあって、しかし逃げ場を許さない金属の細い棒がかごの周りを囲む。
中にはヒノキの木の太い台が組み込まれている。
外側に開く小さな扉がついていて、かごのてっぺんには小さな輪っかのついた構造だった。
しかし、もはや打ち捨てられたゴミである。
終末病棟の患者のように、かごの格好は横に寝転んでいる。
主はもういない。ゴミだからである。
主の主もまた、この街にはいない。
この街が廃街となって30年は過ぎようとしている。
理由は不明だが、人間たちが避難した主因の輪郭は、立ち込める自然の力によっていくらか推察することができる。
どこもかしこも家は廃屋となり、平らな道はどこにもない。道はひび割れ、小石にまで頽落している。
時折山からイノシシが降りてきて、いたるところでクソをして、それを放置するという。追い払う者がいないということだ。
主がいなくなったあと、ごみとなった鳥かごには幾つもの不法侵入者がかごの中に居座った。
ヘビ、カマキリ、アリ、リス、ノラネコである。ノラネコが一番期間が長かったが、死期を悟ってどこかへ行ってしまった。
かごの中の木の台座も、それらによる粗相で、今はもう木の破片となり、表面は黒く焼け焦げたようになっている。
防水のワックスは剥げ、触ることを消毒する事も躊躇うほどのおびただしい虫のついた安息の地となっている。
かごは、ゴミ捨て場に捨てたようなのだが、不法投棄しても問題ないほど様変わりしている。
アスファルトは腐り果て、地中から何かしらの植物が生え、緑のツルの侵略をされている。
そこに投げ捨てられた鳥かごは、今や路傍の石よりもはるかに目立たない金属片となっていた。
かろうじてかごだったという形を残すのみである。
この町はもう死んだと同然のものであり、人の姿は一人もいない。時間もまた死んだようで流れていない。
空気は淀み、天気も崩れぎみで、湿度も気温も不快感の先鋭化となっている。
居心地は悪い。不衛生なほどである。
遠くから小鳥たちの鳴き声が春の訪れを予感させている。巣作りのための材料を探している気がする。
小隊を組むように、そのものたちは、鳥かごだったものの近くに降り立った。
横になったかごの上に乗って、ツンツン、と短いクチバシで足元の具合を確かめる。
もはや金属としての抵抗はなく、卵の殻にひび割れるように。金属の細い棒はひん曲がり、やがて折れた。
その幼い攻撃により、紡錘形の形を失いつつあった。
一部をクチバシで取り上げ、小鳥たちは周りの様子を然として確認。そして飛び去っていった。
穴の空いた鳥かごは、まだ形を失わないで残っている。
7/26/2024, 4:36:17 AM