あん

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8/7/2023, 12:08:19 PM

もしかしたら今の状況は最初から決まってた事なのかもしれない。
仲間が入院して目覚めないまま。
恩師は保護対象を庇い意識不明。
家族だって、絶対安全なところにいる訳じゃない。
どうするのが正解なのか、だったのか。
もう分からないんだ。
「必ず平和な世界は戻ってくる。」 貴方はそう言いましたね。
それは貴方だから言えた事だったんじゃないですか。
今の僕にはこの戦況をひっくり返せる程の力がない。
この世界を救えるほどの力を、僕は持ち合わせてないんだ。 貴方なら、もしここに立っているのが貴方だったなら、今こうはならなかったはずだ。
なんで僕なんだ、何も出来ない自分が悔しい。
救えるはずの命さえ、救えない。 守れない。
僕は無力だ。

「まだだよ。 まだ、君はまだ変われるよ。」
頭の中で誰かが呟いた。 囁かれたんじゃない、呟いたんだ。 嗚呼、そうだった。
僕は、僕らは、全部まとめて幸せに出来る、全部まとめて助けられる、そんな人になりたかったんだったね。
「まだ、僕は負けてないぞ。」
どうかそこで見守ってて欲しい。
まだ弱かった過去の僕。

8/6/2023, 1:15:52 PM

その日は雨が降ってた。
いつもみたいに太陽を見る事は出来なくて、
彼は少し寂しそうだった。
「今日は太陽が見れなくて、残念だね。」
煽るように言ってみた。すると、
「別に俺は太陽が見たいんじゃ無いんだ。 太陽が照らす月が好きなんだよ。」
と言った。 月は夜の方が良く見えるのに、昼に見上げるものだから、不思議な人だ。
「昼に見える太陽の方が綺麗だって?」
「いやぁ、やっぱり夜の月の方が綺麗だよ。」
顔が思わず引きつった。
「やっぱり夜の方が好きなんじゃない。」
「まぁね笑 でもほら、あれだよ、夜は月が主役じゃん。」
舞台の主役を取れなかった私への当てつけなのだろうか。
「ムカつく。」
思わず声が出てしまったらしい。
「ごめんね。 君が主役やってるの見たかったのが、まさか仲良い人だけだとは思わないでよ。」
ふと、肩の荷が降りた気がした。
いつも遠くから私の事を見てきた彼は、私を通して舞台の主役を見てきたんだろう。
「次は、負けないから。 見てなさいよ、私が主役の舞台。絶対あんたに見せてやる。」
そう言ったら彼はいつも困ったように笑うんだ。
「うん、君が太陽になる日が楽しみだよ。」

8/5/2023, 2:18:28 PM

最後の鐘の音が聞こえた。
担任が少し寂しげに微笑む。
授業がようやく終わったと言うのに、誰も喜ばず、なんなら啜り泣きが聞こえたほどだった。
委員長が言った。「起立。」
椅子の音が響く。
いつもなら張った声で喋る委員長が鼻づまった大声で
「ありがとうございました。」と言うものだから。
クラスの運動部がここぞとばかりに大声で、
「ありがとうございました!!!!」と言った。
その声に押されて、自分の声も自然と大きくなる。

意識せずともいつの間にか視界に居た隣の席の彼女、
瞳を閉じたら落ちるであろう大きな雫を落とさないように。 眉に皺を寄せ、震えた声で、
「ありがとうございました。」 と言った。
一人一人の違った声色で聞こえた最後の号令は、ワサビを食べた時のように鼻にツーンと来るものだった。
春のくせに桜はまだ咲いていないままの学校を。
今日卒業した。

8/4/2023, 1:12:59 PM

君は僕のお隣に住んでる少し年上のお姉さん。
君はいつだって、どんな時だって人を笑顔にする人だった。
作り話なのか果たして経験した話なのか、どっちとも取れる話をするのは君のお得意技だった。
妖精や、どこかの国のお姫様、はたまた花の話だったり。 本当に色んな話をする人。
でも君はそんな時きまって窓から見える景色とは違う、どこか遠いところを見て寂しそうな顔をする。
外を見て、「君はいいね。」って、寂しそうに笑うんだ。
僕はどうしてもその顔が好きになれなくて、
「別のお話をして。」って話をねだるんだ。
君は今日も同じように話をしてくれた。
でもその話はまるで君の話のようで、最後には綺麗なお花畑で永遠の眠りにつくお姫様の話だった。
君はやっぱりどこか寂しそうな顔をして、
「私も、綺麗なお花畑へ行ってみたかったわ。」って、僕の頬を撫でるんだ。
僕はその手が暖かったのを今でも覚えている。

「君が好きだと言った花を、君の傍に咲かせたよ。」
僕は今日も、君に会った時のために、色々な話を考えておくんだ。

8/3/2023, 12:45:50 PM

目が覚めるまでに私は夢から覚める。
夢の中の私は空が飛べて好きな所へ行くにも何をするにもひとっ飛びだ。
ふとした時、私は真っ白な空間に居る。
何も無くて、誰も居なくて、ただ平面な世界に。
私は1人で立っている。
そんな時、誰かが呼んだ。後ろから私を呼んだ。
「起きて。」
嗚呼、今日も一日が始まる。
目が醒めた時、私は同じく真っ白な空間に居た。
誰かがずっと手を握って、
名前を呼んでくれていたらしい。
顔に柔らかく冷たい感触が降ってきた。
泣きながら笑ってる。
そうだ。この人は少し変な人だった。
「おはよう。」
少し喋りにくい枠を付けたまま。私は返事をした。

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