俺はただ、もう一度お前と話がしたかった。
墓場で酒盛りして、馬鹿なネタで笑い合いたかっただけなんだ。
その時にはお前や奥さん、赤ん坊もいるだろうし、それをただただ少し遠くで優しく見ていたかった。
こういうのをきっと、人は幸せと云うのだろう。
「これ、逃げるでない」
伸ばした手は無理矢理布団へと引き戻される。
強かに打ち付けられた腰、度を超えた快楽が一気に脳天へと突き刺さったみたいだ。
金魚みたいにはくはくと口を開くことしかできない俺を見て、お前の目は三日月に細まる。
現実はあまりにも非情だ。
「逃がさぬよ」
嗚呼そうか。
これは俺への罰なのだ。
俺なんかが少しばかりの幸せを願ってしまったから、天罰が与えられた。
そうでないと、優しかったお前がこんなにも変わるなんておかしいだろう、なァ友よ。
草の上に思いっきり寝っ転がってみる。
芽吹いたばかりの緑の匂いが身体いっぱいに染み込んだ。
こうして季節をゆっくり感じられるようになったのは果たしていつぶりだろうか。
「お兄ちゃん!いた!」
向こうから弾むような声が聞こえてくる。
「ご飯ができましたよ!帰りましょう」
伸ばしてくれた手は自分よりもひとまわりもふたまわりも小さい。
切れ長だがまだどこか幼さを残す丸い瞳がまっすぐこちらを見つめてくれる。
「ありがとう、帰ろうか」
「はい!」
手を繋いで二人で歩き出す。
爽やかな風が背中を優しく押してくれる。
世界が、ぐるぐる揺れている
頭が痛い 吐き気がする 最高に生を感じる エトセトラ
床に転がる沢山のつぶつぶ
白って200色あんねん、
何か誰かが言っていたような気がする
嘘ばっかり
赤いユニコーン
青の歯車
黄色のブラウス
緑のおじさん
紫トマト
橙の海
桃色の空
嗚呼、世界はたった七色でできている!
後ろを振り返った時に、様々に流れ込むモノクロの写真
嗚呼、当時は彩り豊かに時を過ごしていたなァなんて思う
楽しかったことも苦しかったことも全ては今を作り出す
あんな思い出はいらない、君はそう言うかもしれない
でもね、その出来事が今の君を確りと導いて僕に出逢わせてくれたんだよ
泣いてばかりいたからこそ、心を震わすことの美しさを知ったのだ
絶望に打ちひしがれたからこそ、人を信じる喜びを知ったのだ
なァんていう僕だってまだまだ過去に囚われていることは沢山あって
それをひとつずつひとつずつ掬いとって空に返していきたいなァ
痛みを伴う出来事。
指を切ったり、擦りむいて転んだり、所謂怪我というやつである。
もう二度と、もう二度とやらんぞ。
人は愚か。
数こそ減るが、何だかんだまたやるのだ。
それは怪我に限らず、精神的な痛みも右に同じ。
忘れ物して先生に叱られたり、遅刻して上司に怒られたり。
もう二度と、もう二度とやらんぞ。
……人は愚か、である。