吐く息の白さにうっとりと目を閉じる。
そんな日は家に帰るのがいつもよりも待ち遠しい。
枯葉達のダンスに心弾ませ、耳たぶを突き刺すしんみりした冷たさを存分に味わう。
さぁて、いよいよ待望の帰宅だ。
いそいそと六畳半にでんと陣取る我らが主役に身体を潜らせる。
嗚呼炬燵、嗚呼炬燵。
季節限定だけど今年もずっと一緒だよ。
ふわり、ふわりと心に浮かんでくる今日あった出来事とか、その時どう感じたとか。
特にどうってことない、誰に話しても差し障りの無い話をあなたにしたい。
いや、あなただから話したいのだ。
毎年この季節は憂鬱だ。
タダでさえ寒いってのに、こんな時に限って風邪なぞひいてしまった自分のポンコツさを恨む。
背筋はゾクゾクと震え、鼻水はツーっと止まらない。そして頭は大きな岩を乗っけたかのように重くて、痛い。
独り布団で震えるこの時間も虚しい。
身体だけでなく、まるで心も病に冒されてしまったよう。
寂しい、苦しい、寒い、痛い。
このしんどさを分かち合える相手がいない悲しみに枕を濡らした。
あなたが来るのをひたすら待ち続けていた。
そうこうしているうちに、街には煌びやかな彩りが添えられる季節になってしまった。
どことなく浮き足立つ人々の群れ。
何だか私まで釣られてしまいそう。
だけれどもまだダメだ。今年こそあなたに出会えるまで空を見上げ続ける。
サンタさんにお願いしたらプレゼントしてくれるかしら。
宝箱の中身を全てひっくり返したような夜空が広がっている。
ここは日本で一番星が美しく見られる場所と聞いてやって来たのだが、その情報に嘘はなかった。
本当なら隣にいた人間の分までその美しさを丸ごと堪能してやろうと思う。
瞳から零れるしずくの意味は、きっと満天の星空に心を震わされたからに違いない。
……そうでなければ他に何があるというのだ。
さっきまでくっきりと見えていた星たちが滲んでしまう、嗚呼勿体ない勿体ない。
私は目を擦ってその夜空を瞼の裏にまで焼き付けようとするのだが、そうすればするほど鼻の奥がツンと痛む。
頬を涙が一筋伝う。
吐く息はどこまでも白く、それでいてどこまでも独りだった。