あなたがいるからわたしはいきていられる
そんな月並みな言葉を並べたとて、きっとあなたは眉を下げて困り顔するに違いない
でもこれは本当のことなのだ
わたしのあなたへのおもいはことばというりんかくからかんたんにはみでてしまう
いつか本当の意味が伝わるといい
その時のあなたの顔が私は見たい
だからわたしはきょうもいきる
ぱらぱらとリズミカルに葉をたたく。
乾ききった土にたっぷりの潤いがもたらされる。
むわりと漂う雨の匂い。
その中に涙が混ざっていても分かるまい。
ぷつり、小さく音を立てて救いの糸が切れる。
嗚呼待ってくれ、落ちないで。
お釈迦様もきっと悲しまれるに違いない。
こんな形で一筋の光が消えてしまうなんてあんまりだ。
しかし現実は容赦なく訪れる。
何処までも深い闇。手探りで進むしかあるまい。
後ろに戻ることはできないから前に進む、ただそれだけ。
縁側にクッションを置いておく。
するとうちの爺様がその上にやおら身を預け、窓から庭を覗くのだ。
お日様が温かいのが嬉しいのか、その顔はにこにこしているようだった。
「ミルキー」
名前を呼ぶとほよほよと目を閉じた横顔で反応する。
その背中にじんわりと哀愁が漂っていたのを今でも覚えている。
なんてことない、うちの亡き先代犬のお話。
「見て、どんな顔してる?」
そんなの見たくない。蕩けきった己の顔なぞ見たいわけあるものか。
それなのに後ろの男は意地悪く耳元で囁いてくる。
欲と熱と快楽に塗れた己の顔を鏡に向けさせるのだ。
「大丈夫、とても綺麗だから」
綺麗なわけがない。そんな形で自分と向き合いたくなんてない。
嗚呼こんなのだったら姿見なんて買うんじゃなかった。
鼻息荒くお強請りしてきた自分の恋人を今、恨む。果たしてこれがやりたかったのか、こいつは。
「僕の可愛い恋人。こんな可愛い姿を僕だけ知っているのも良いんですが、あなたとも共有したくなって」
いらぬ世話だと内心思う。でも恋人という甘い言葉の響きに心がとくんと弾んでしまったのもまた事実。
鏡の中の自分はだらしなく、それでいて幸せを確りと手に入れていた。