取るに足らない些末な出来事。
しかしながらそのことが、後に大きな伏線となって人生という広い道にどかーんと寝そべっていることがある。
嗚呼あの時もっときちんとしておけば、話を真面目に聞いておけば。
人生とは往々にしてそんなもんである。
そして渦中の時には気付けない。つまらんと吐き捨てて、地面にぺちゃっと味の無いガムを踏み付けて。
後にそのガムに苦しめられる事になるのは吐き出した自分なのに。
恋愛は人のIQをがくっと下げてしまうそうだ。
確かに結婚も勢いと言うし、あながち間違ってはいないのだろう。
だからこそ私はペンを執る。
原稿上で恋に心踊らせる二人をもっと描いてみたいから。
午後二時半、ダメと言われる日を除いて彼女は毎日彼に会いに行った。
「今日はこんなことがあってね」
そんな取り留めのない話をする。彼は話をよく聞いてくれた。
「そうなんだ、うんうん」
相槌の打ち方、間のとり方、どれを取っても完璧だ。
聞き上手とは正に彼のことを言うのではないだろうか。
遺された彼には耳が残った。
「話をいつもよく聞いてくれる人でした」
彼の周りで人々が話す。
こちらを優しく見つめてくれる時も、瞼を閉じて息をしているだけの時もそう。
病室と聞くと私はこのエピソードを思い出すのです。
「渇水対策本部」、雨の降らない地域では耳馴染みのある言葉だろう。
他県の人とこの話をした時「何それ令和のNERV?」とその存在を信じてもらえなかった。
エヴァンゲリオンよろしく、そんなものがあったとてお天道様を操縦することは誰にも叶わないのだ。
毎年この時期になると憂鬱になる。
いつ雨が降るか、次はいつ水の恵みを受け取れるのか。
ダムの貯水率をニュースで聞き、節水を心掛けて日々を営む。
てるてる坊主を逆さまに吊れば雨が降ると聞いたことがある。
もし明日も晴れるなら、そろそろてるてる坊主にでもお願いするしかあるまいよ。
沈黙が苦手だった。
何か喋らないといけないあの空気に、思わず呑まれそうになるからだ。
一人が苦手だった。
奇異な目で見られるあの眼差しに、思わず心が折れそうになるからだ。
全て自分の心がそう思わせていたことに気付いたのは、何時の頃だったのだろう。
恐れていたあの頃の私に今は胸を張って言いたい。
沈黙を共有できる人と居なさい。
同じ時間を共にすることの意味を学ぶことができるから。
一人の時間を持ちなさい。
自分とじっくり向き合える貴重な機会だと知ることができるから。
だから私は沈黙を恐れない。
だから私は一人でいたい。