絶対に言ってやるもんか…!
そして、絶対に絶対に絶対に言わせてなんかやらないんだから…!
物語ならきっとこれが後悔に繋がるんだろう。
言わなかった言葉や言えなかったことを後悔しながら生きていくのだろう。
でもこれは物語ではないから、私は自分の意地を通そうと思う。
どうしてこんなことになったかなんて、自分も相手もきっともう既に覚えてなんかいなくて。
ただ、私は絶対にあの人に謝罪をさせたくないし、謝罪を聞かせたくないのだ。
だから今日も私は意地を通すためにあの人を避けている。
あの人のことを思い出すとき、それはいつも困ったような顔と「ごめんね」その言葉がセットだった。
あの人は優しくて臆病な人。
そして、ズルい人。
優しいから、喧嘩が嫌いな人だった。
臆病だから、頭を下げることを厭わない人だった。
そして、謝れば許されると信じている、そんな人だった。
ねぇ、どうしてあなたが謝るの?
前に聞いたことがある。あなたは悪くないのに、と。
不思議そうに首を傾げられたっけ。
考えたこともなかった、と。
謝れば終わるから、自分は誰かが怒ってるのみるの嫌いなんだ。
そんなふうに言う相手を怒ることなんか出来なくて。
咄嗟に私はあの人の前から逃げたのだ。
謝ろうとするあの人の言葉から逃げたのだ。
そんなことを続けていても限界はある。
あの人からメッセージ。
「花を買ったんだ。君に渡したい」
添付の画像には、紫や青や黄色やオレンジの花が飾られてた。
「なら、私からは」
イエロー・パロットを贈ろう。
私はあなたの謝罪を聞きたくないし、聞かせたくもないのだから!
モスコミュールにはまだ早い。
--------—------—---------------------
あとがき
あの人が送った花は、
紫のヒヤシンス
青のヒヤシンス
黄色のヒヤシンス
カンパニュラ
カリフォルニア・ポピー
https://www.ccact.org/hanakotoba/19512/
こちら参照しました。
「私」のカクテル、変えました。
「モスコミュール」のカクテル言葉は、「喧嘩をしたらその日のうちに仲直りする」
「イエロー・パロット」のカクテル言葉は、「騙されないわ」です。
カクテル変えないほうがよかったかなぁ…。
半袖が似合う季節になりましたねぇ。
傍らの相手がラムネの瓶を傾けながら道行く人を見て言う。
同じ方を見れば確かに前に見たときより半袖で歩く人が増えたように思う。
かくいう傍らの相手自身も半袖だし、自分もまたそうだ。
ほんの少し前までは半袖はまだ寒いですかねぇなんて言っていたが、まぁ、そんなもんなんだろう。
暑い暑いと手を団扇代わりにパタパタさせる姿を見るとはなしに見ていたら、何かを勘違いしたのか、こちらに飲みかけのラムネの瓶を手渡そうとする。
「飲みたいならそう言ってくださいよ」
「いや、大丈夫だ。シュワシュワが苦手なんだ」
シュワシュワ、
「あなた存外可愛らしい言葉を使うんですねぇ」
小さい頃からそう言っていたからつい口を出ただけだったが、何かがツボに入ったらしい相手は、
シュワシュワ、ふふ。シュワシュワですって
なんて笑うから。
その手のラムネを奪い取り、一気に飲む
炭酸が喉を通り過ぎる。
思わずむせってゲホッと咳を出す。
「苦手なんでしょ、無理しないでくださいよ」
「無理はしてない」
「……ふふっ、そうですか」
暑いですねぇ。
からん、と空になったラムネの瓶にビー玉が当たる音がする。
下手な話の切り替えだけど、なんだかそれが嬉しい。
相手が飲んでたラムネは今しがた自分が飲んでしまったから、
もうないのか。
申し訳ない気持ちになった。
暑さを和らげるものは何かあっただろうか。
あ、と思い出す。
少し席を外して思い出したものを持っていく。
ほら、と傍らの相手に手渡すと、また笑われた。
「これは大丈夫なんですか?」
「これはシュワシュワしないからな」
ラムネ色の冷たいアイスを二人で食べながら、笑い合う。
半袖が似合う季節になったらまた二人でこれを食べたいとそう思った。
どうしてもやりたいことがあった
だから多少無茶してでもそれをやろうと思った
でも暫くしたら、邪魔が入るようになった
だからすっとぼけて逃げて逃げて逃げた
やりたいこと
やらなきゃならないこと
例えばそれはずっとずっと大切にしていたものに
降り止まない雨を止めてあげること
例えばそれはまた明日ねと言った人に
また明日会うこと
例えばそれは見上げた月に共有した誰かにとっては他愛もない
小さな小さな願いを忘れないこと
だから、逃げて逃げてにげて
そしてあの日、逃れられないことを悟ったあの日
大切なものに降り止まない雨を止めてあげることは出来なかったけど
また明日ね、と手を振ったあの人に明日会えなくなったけど
見上げた月にそっと託した願いはきっといつか忘れられていくのだろうけど
代わりにきっとできたことはあるはずだ。
もしも天国に行けたなら
託した願いを思い出せるように、
誰かと笑顔で「また明日」と言えるように
降り止まない雨をほんの少しだけ弱くしてあげよう。
もしも地獄に落ちたなら
いっそ降り止まない雨を強く強くしてしまおう。
また明日を言えないくらいに託した願いで傷ついて流した涙がわからないように。
だから大丈夫。
怖くはない。後悔もない。
逃げて逃げて逃げた先がここなら良かったはずだ。
なぁ、おまえ。
ずっと邪魔してきたお前だよ。
お前が来たから逃げて逃げて逃げて逃げて逃げてたけどさ、
きっとお前が来たから忘れずに楽しく見守られたと思うから。
なぁ、
お前が連れてってくれる場所はどんなとこなんだろうな?
「天国」か「地獄」か
はたまたどこでもないのか
正直、何を書けばいいんだろう?
そんなことを思いながらいま筆をとっています。
あの頃の私へ。
書き出しだけは決まっているこれを書こうと思ったのは、ちょっと面白い企画に当選したからとかそういうのは抜きにしてもきっとこれがいつかの貴方への答えになるかと思ったからです。
でも貴方も私だからわかってくれてると思いますが、私は文章を書くのが苦手です。
だから、とりあえず何も考えずに書きます。
あの頃の私へ。
先日貴方からの手紙が届きました。
タイムカプセルに埋めてくれたたくさんの宝物も一緒です。
あなたからの質問に答えます。
あの頃の私の周りがキャーキャー言ってたクラス1モテていたあの子は、先日の同窓会ではあの頃の面影もないつまらねー男になってました。
あの頃の私が大好きで読んでいた漫画はなんと今でも続いてます。そして今の私も大好きです。付録めっちゃ嬉しかったです。
あの頃の私、なんて残酷な質問してるんですか…!?
恋人も好きな人もいないまま、ここまで生きてます。満足か。
あの頃の私
大丈夫です。私は生きてます。
あの頃の私が生きてくれたからです。
ありがとう。
それでは、私も貴方に倣ってこれからこの手紙をあの頃の私に届けられるよう、未来の私に託します。
この手紙はいつかの未来の私がいる時代、
過去に思いを届けられるようになる時代に貴方に送られるそうです。
それではそろそろ自分でも書きたいことわからなくなったので終わります。
あの頃の私へ、一緒に頑張ろー!
いつかの私より。
―――――――――――――――
そこまで書いて一息つく。
あの頃の私が書いた手紙をこうやって新しい便箋に書き直すのも何回目だろう。
届かない手紙の数を数えるのは疾うの昔にやめた。
そして、これだけは書き直されずに「私」まで届いた手紙。
ただその前に内容確認で未来の私が読むらしいです。
なのでこれは内容確認してる未来の私へ。
この手紙を読んでいる私へ。
あなたのいる時代がどんな時代かはわかりません。
私の時代は最高で最悪です。
ただ、生きていきます。
あの頃好きだった漫画の名前は忘れました
恋人の名前も思い出せません。
今日は何を忘れたかわかりません。
明日は何を
あぁ、これは。
今度こそもしかしたら、もしかしちゃうかもかなぁ。
そうだよなぁ、うん。
いやいや、でも気の所為かもしれない。
期待してまた落ち込むのはイヤなんだけどなぁ……
あーあ、はいはーい。
あなたの心の大事な存在でーす。
なになに茶化すなって?りょーかい。
それで?なに?
うん。うん。
えー、いや、え、うん?
まぁたそれー?キミも諦めないねぇ。
いやだってさぁ、キミの気持ちもわかるけど。
あーはいはい、わかったわぁかったってば。
耳タコだよ。
耳タコにしてるのは誰のせいかって?
そーだねー、こっちが悪いね。ごめんってば。
もうほんとにさぁ、
えーうんほんとほんと。ほんとにわかりましたー!
あっはっは。
あーもーほーんと。
うん、大丈夫だって。
ごめんって、マジで今度こそ腹ァくくりました!
ちゃあんといきます。
うん、うん。
大丈夫大丈夫。無理してないよ。
うん、ありがとね。
うん。じゃあまた ね。
あーあ。
腹ぁくくりますよ。
約束したじゃん。
逃げてたけど見つかっちゃったし。
今回はまぁ逃げられないかなぁって覚悟してたし?
うん、逝ってきます。