ほろ

Open App
2/24/2024, 2:58:42 PM

死に際に来てくれたのは、家族でも友人でもなくて死神だった。ドクロの仮面と黒装束。漫画にでも出てきそうな、典型的な死神。
「本当にいるんだ」
思わず口に出すと、死神の肩が揺れた。
「なんとなく考えていることは分かりますが、これは自分の意志ではありません。貴方の思い描く死神像を投影しているのです」
「喋るんだ」
「貴方、よくマイペースと言われません?」
「さあ? 言われた記憶はないけど」
「幸せな人ですね」
そうかな、と首を傾げると、死神は大きく溜め息をついた。分かりやすいようにオーバーリアクションをしてくれるから、表情が分からなくても伝えたいことが分かる。正直、それくらいハッキリしてくれた方が助かる。
最近は、死期が近いのを悟らせないように曖昧な態度をとる人ばかりで、うんざりしていたところだ。
「それで、死神が来たってことは、もうすぐ死ぬの?」
「……案外あっさりしてるんですね」
「だって、今更だもん。何回も入退院を繰り返してたら、嫌でも自分の体が悪いことくらい分かるよ。最近は特に多かったしね」
「まだ17歳なのに、そんな達観しなくても」
やれやれ、と首を振る死神。
別に事実を言っただけで、達観してはいないんだけどな。
「とにかく、何かやるなら早くしてね。ちっぽけな僕の命なんて、すぐ燃え尽きちゃうんだから」
「……もちろん仕事はします。ただ、命に貴賤も大小もありませんよ。それだけは覚えていてくださいね」
「もうすぐ死ぬのに?」
「もうすぐ死ぬとしても」
死神は、右手を僕の胸に翳した。サッカーボールくらいの球体が体から出ていく。視界がぼやける。
「それは……?」
「分かっているでしょう。全然ちっぽけじゃない、貴方の生きた証ですよ」
徐々に力が抜けて、上手く呼吸もできなくなる。
でも、さっきの球体が輝いているからか、体の自由が効かなくなっても怖くなかった。
「ありがとう……」
最後の力で呟く。死神の姿は見えなかったけれど、また会えたらいいな。

2/23/2024, 2:17:15 PM

キラキラの宝石、見た事のないような服、まだ読んだことのない本。今日はわたしの誕生日。
「まあ素敵! こんなにいっぱい、プレゼントをありがとう!」
お気に入りのワンピースがふわり。わたしはパーティーに来てくれた人達にあいさつに行く。来てくれてありがとう、プレゼントをありがとう。そう言うと、みんな笑顔でどういたしまして、と言ってくれる。
一通りあいさつをして、わたしはお母さんとお父さんのところに行った。
お母さんとお父さんは、二人並んで笑っていた。
「お母さん、お父さん」
わたしが話しかけると、二人は持っていたグラスをテーブルにおいてしゃがむ。わたしと目を合わせてくれる。
「わたしのお母さんとお父さんになってくれて、ありがとう」
二人の大きな手が、わたしの頭をなでた。
「こちらこそ、生まれてきてくれてありがとう」
「生まれてきてくれてありがとう、私たちの愛しい娘」
ふふ、とつい笑ってしまう。
とっても幸せだけれど、誕生日はまだまだ続く。
こんなに幸せでいいのかしら。いいのよね。
誕生日って素敵!

2/22/2024, 12:52:22 PM

「今日は変なところで会ったね」
や、と片手をあげる奴を見上げる。
「なんでこんなとこにいるんだよ」
体育館とプールの間の隙間。隙間といっても人が二人並ぶには十分な空間だ。そこで草取りをしていた俺を、奴はどうやって見つけたのだろうか。というか、そもそも今は授業中のはずだ。ここに生徒がいること自体おかしい。
俺の視線を無視して、奴は俺の隣にしゃがんで草をむしる。ぶち、ぶち、と明らかに根本からとれていない音がする。
「体育館から見えたから」
ぽつり、奴は呟いた。
「……今体育なのか? 制服なのに?」
「見学してたんだよね」
「見学? お前体育好きそうじゃん」
「何それ。雑なイメージ」
乾いた笑いを零して、奴は黙り込む。
いつもカラカラ笑って鬱陶しいくらいなのに、今日は静かだ。いや、最近会う時は割と静かだったかもしれない。何かあったんだろうな、と思う。
「雑ってことはねーだろ。文化部であんまショートカットを見ないっつー、アレだよアレ」
でも、俺は突っ込まない。ただの用務員で、こいつの担任でも親でも友達でもないからだ。こいつは、話す時がくれば話すだろう。今は知らないフリをして、普通の会話をするに限る。
「や、文化部でもショートいるし」
「じゃあ、お前文化部なのかよ」
「…………女子バスケ部」
「ほら見ろ」
「たまたまじゃん!」
ははっ、と笑えば、奴もつられたのかケラケラ笑った。やっぱり、さっきの全部を諦めた笑いより、こっちの方が断然良い。
「じゃあ、次会う時までショートの文化部探しとけよ」
「……絶対見つけるから!」
「はいはい、頑張れ頑張れ」
適当に返事をすると、奴はさらに「バカにすんなー!」と叫ぶ。そう言う割には、太陽のような眩しい笑顔を見せているから、一応は悩んでいたことを忘れているのだろう。
「一人くらいは見つかるといいな」
ショートの文化部も、なんでも話せる相手も、一人くらいは奴の前に現れてほしい。ただの用務員が願うには、大きすぎる願いかもしれないけれど。

2/21/2024, 10:47:50 AM

長期休みが苦手。
土日を休んだだけでも、次の週の月曜日は緊張するのに、それが1ヶ月以上続くなんて。
長期休みは苦手。
休み明け、私はいつも上手く話せない。休み前にどうやって話していたか分からない。なんでこの子と友達なんだっけとか、あの子雰囲気変わった? とか、休み前を思い出すのに時間がかかる。
毎回、休みを挟むたびに私の記憶はほぼ0になる。

早く、長期休みのない大人になりたい。
0からの始まりを繰り返すのが、嫌で嫌で仕方ない。

2/20/2024, 1:08:07 PM

「かわいそうに。あの人がパートナーでしょ?」
新入社員の頃、新人研修を担当した女の先輩からそう言われたことがある。
うちの会社では二人三脚が基本であり、入社してすぐに三年以上勤務している人とペアを組まされる。先輩が「かわいそうに」と言ったのは、私のペアが無口・無愛想・無表情の三拍子が揃った男の人だったからだ。
「あの先輩って、ペアだと何かマズイんですか?」
「マズイっていうか……やりづらいよ、絶対。全然喋らないし、同期とも連絡とか取らないし」
「なるほど……」
別に、それ自体は普通じゃなかろうか。
世の中皆喋り上手じゃないし、用がなければ連絡しない人だっているし。
先輩の話に適当に相槌を打ちながら、遠くで別の新人と話す例の先輩を盗み見る。悪い人には見えない。あとは話してみなければ分からないけれど。
「……かわいそうに」
「何か言った?」
「いいえ、なんでもないです」

周りの人が、勝手にあの人にイメージを押し付けているんだろうな、かわいそうに。

Next