「今日は変なところで会ったね」
や、と片手をあげる奴を見上げる。
「なんでこんなとこにいるんだよ」
体育館とプールの間の隙間。隙間といっても人が二人並ぶには十分な空間だ。そこで草取りをしていた俺を、奴はどうやって見つけたのだろうか。というか、そもそも今は授業中のはずだ。ここに生徒がいること自体おかしい。
俺の視線を無視して、奴は俺の隣にしゃがんで草をむしる。ぶち、ぶち、と明らかに根本からとれていない音がする。
「体育館から見えたから」
ぽつり、奴は呟いた。
「……今体育なのか? 制服なのに?」
「見学してたんだよね」
「見学? お前体育好きそうじゃん」
「何それ。雑なイメージ」
乾いた笑いを零して、奴は黙り込む。
いつもカラカラ笑って鬱陶しいくらいなのに、今日は静かだ。いや、最近会う時は割と静かだったかもしれない。何かあったんだろうな、と思う。
「雑ってことはねーだろ。文化部であんまショートカットを見ないっつー、アレだよアレ」
でも、俺は突っ込まない。ただの用務員で、こいつの担任でも親でも友達でもないからだ。こいつは、話す時がくれば話すだろう。今は知らないフリをして、普通の会話をするに限る。
「や、文化部でもショートいるし」
「じゃあ、お前文化部なのかよ」
「…………女子バスケ部」
「ほら見ろ」
「たまたまじゃん!」
ははっ、と笑えば、奴もつられたのかケラケラ笑った。やっぱり、さっきの全部を諦めた笑いより、こっちの方が断然良い。
「じゃあ、次会う時までショートの文化部探しとけよ」
「……絶対見つけるから!」
「はいはい、頑張れ頑張れ」
適当に返事をすると、奴はさらに「バカにすんなー!」と叫ぶ。そう言う割には、太陽のような眩しい笑顔を見せているから、一応は悩んでいたことを忘れているのだろう。
「一人くらいは見つかるといいな」
ショートの文化部も、なんでも話せる相手も、一人くらいは奴の前に現れてほしい。ただの用務員が願うには、大きすぎる願いかもしれないけれど。
2/22/2024, 12:52:22 PM