1つだけ
少年は飴玉を1つだけ、盗んだ。
露天商の主人が目を逸らした隙に、山積みにしてあったものを。
皿の上で太陽光に当たりきらきらと輝く、赤や緑や黄色の球体は、貴族が身につける宝石のように綺麗だった。
貧しい家に生まれた少年は、甘味なぞ食べたことがない。美しい飴玉は、憧れの塊だった。
きっと、1つだけなら分からない。
気がつけば少年は右手にそれを握りしめ、走っていた。
何色を盗んだのかは見ていなかった。
街の路地裏に隠れて、手を開こうとした時。
「おい、そこの」
血の気が引いた。見回りの兵士だ。
厳つい顔に、腰に剣を下げている。大柄なその姿は少年に近づくと暗い影を作った。
「手を出せ。両方だ」
少年は震えながら言われた通りにした。
取り上げられる、だけで済まないだろう。両の手を切り落とされるかもしれない。
恐怖に目をぎゅっと瞑って、手を開いた。
重みを感じた。
恐る恐る、まだ繋がっている手を見るために、目を開けた。
飛び込んだのは、色彩。
赤、緑、黄色。光が当たる球体が、たくさん。溢れんばかりに。
少年の手の中に、確かにあった。
「2度目はないぞ」
呆ける少年に耳打ちすると、厳つい顔の兵士は去った。
その後ろ姿に、何度も何度も礼を言う。
安堵と喜びと反省とが混ぜ込んで、ただ泣いた。
手の中で、最初に盗んだ飴玉は何色かわからなくなってしまった。
1つだけの小さな罪は、大きな優しさで塗り潰されたのだから。
大切なもの
大切だった。
だから、鍵をかけた。
檻は逃げ出さないようにではなく、
外側から傷付けられないようにだった。
大切だった。
だから、高い場所に置いた。
見上げればそこにいる、
女神のような存在にするために。
大切だった。
だから、歩けないようにした。
わかりやすい『弱さ』を与え、
誰かが手を差し伸べてくれるように。
全て、嘘だ。
どこにも行って欲しくなかった。
お前がいなくなったら、壊れてしまう。
一番大切だったのは、自分の心だけ。
お前自身はどうでもいいのさ。
お前自身は……。
大切だった。
だから、恨まない。
これだけは、本心だ。
空っぽの檻の中、腹部を刺された男は血を流し、やがて息絶えた。
エイプリルフール
お前に逢えて良かった。
お前がいるから生きていける。
生き方を教えてくれた。
嫌いだった春もお前がいるから悪くないって思える。
憂鬱な時は支えてくれる。
死にそうに辛い時も寝て起きたらお前がいるって思ったら起きられる。
ただ歳を重ねるだけだったのに来年はどうしようこうしようって予定たてて生活していくのが楽しい。
お前がいないと生きていけないってドラマみたいな陳腐な台詞だけど実感した。
いない世界なんて考えられないだから長生きして健康でいて外に出たら可愛い夫婦だねって言われるじいちゃんばあちゃんみたいになりたいです。
…さて、今日はエイプリルフールですがここで問題です。
俺はどこで嘘をついたでしょうか?
「最後の一文」
嫁は顔色一つ変えずに正解を言った。
幸せに
物語の主人公は貴方
貴方の幸せを心から願っている
だから
ガラスの靴は壊しましょう
寝ている狼は起こしてしまおう
魔法使いは裏切って
鬼は意地悪じいさんの用心棒
お供の三匹は途中退場
ぼろぼろになって
傷ついて泣きじゃくって
でも死ぬ事は許さない
物語が終わってしまうから
困難のない物語なんてあると思う?
黙って立っているだけで
『幸せ』になれるなんて
本気で思っている?
都合の良い幸運だけで解決する主人公なんて
お呼びじゃないの
不運 敗北 挫折 訣別 失望
苦しんで苦しんで
足掻いて
もがいて
のたうち回って
立ち上がる瞬間を私達に見せて
『幸せ』になりたいなら
血反吐を吐いて掴みとりなさい
何気ないふり
いや、ムリ。
何気ないふりとかムリ。
今更キョーミないです、ってふりとかできない。
そもそも俺ぁ嘘やカケヒキ?みたいなのが苦手で
押して押して押しまくってようやくあの人と付き合えたんだ。
結婚したい。だから指輪もストレートで渡す。
いや、拒否されるのはわかってる。
そもそもあの人は結婚願望ないし。
初めて会った学生時代から闘病してたから、未来に夢も持てないって、何度も言われた。
遺伝的な事も怖いから、子どもも欲しくないって。
だから何回もフラれた。その度に『付き合ってください』って繰り返した。
だって。
本当は着てみたいんだよ、あの人。
ウェディングドレス。
貸した漫画や、いつも見ている雑誌。テレビCM。広告掲示板。
キョーミないふりして、いつも食いついてた。
でもそれは病気の自分には叶わないって諦めてる。
結婚も子どもも責任持てないからって。
未来がない、からって。
きっと、そう。
花嫁さんになりたいって、今どき古臭くて可愛らしい夢を持てないでいる。
ふざけんな。
あと一年、あと一日、あと一時間、あと一分。
一秒先を生きてる人が、夢を持てない道理があるか。
俺は貴女と結婚したい。
戸籍入れて、できれば子どもも欲しいし、育ててみせる。
ドレス写真だけとか、中途半端な事はしない。
拒否されたって何回でもプロポーズする。
こんなバカな俺だけど、貴女の夢を叶えるヒーローになりたいです。
明日終わるかもしれない一生を、俺にください。