ハッピーエンド
お前が嫌いだ。
ガサツで、不真面目で、責任感がなくて、嫌いだ。
お前みたいな奴が勇者に選ばれるなんて
理解できない。
言葉はいつもチャランポラン。
任務や依頼は不成功。
全て一人でやろうとするから、仲間意識がない。
腹が立つ。むかつく。
この世界に、お前みたいな奴がいる事が。
敵はいつも、人間だった。
魔物なんて、倒して終わり。
ケチをつけて報酬を出し惜しむ事も
己の悪事を他者に押し付けて私達に殺させる事も
強さゆえに化け物扱いして石を投げる事もない。
人間は救いようがない。
『真面目にやるだけバカみるよ。一息つけよ』
『俺が助けたいから、助けるだけ』
『化け物でいいじゃん』
お前はそう言っていた。
守る価値がない人間すら助けて。
私達に手を汚させないよう、独りで戦って。
騙されて、憎まれて、否定されて。
それでも、戦う。
お前も救いようがない、お人好しだ。
独りにさせて、たまるか。
お前を勇者にしてたまるか。
魔王と戦い命を散らす運命なぞ
認めてたまるか。
認めない。
お前の死ぬハッピーエンドなんて。
私がこの手で変えてやる。
見つめられると
泣いてしまうから
僕はただ、前だけ向いた
僕より何年も戦場を駆け抜けた貴方は
人を殺した事実に押し潰されそうな僕を
決して『軟弱者』とは言わなかった
『お前はただ、前だけ見てろ』
貴方がそう言った
僕の他に何人にも言った
死んで欲しくないからだって、わかっていた
助からないとわかっていた
だから振り替えられなかった
僕だって、貴方に死んで欲しくなかったのに
でも
一瞬合った目が、言っていた
『前だけ見てろ』
それはイコール、『生きろ』の意味だから
走った
叫びながら、泣くのを堪えながら
背中に貴方の視線を感じながら
どんなに罪を重ねても
たった一人が『生きろ』と言うなら
振り返らない
貴方の、もう光が灯らない目を見ない
My Heart
もうすぐ、俺の心臓は停まる。
悔いはない。怖くもない。
そうだったなら戦場で生きて来れなかった。
目の前の人間を
殺して、殺して、殺して
それが祖国の為だと信じて生きてきた。
それでも、死んで欲しくなかったから
家族に、仲間に、友人に
『前だけ見てろ』と言い続けた。
ほら。今も通過した。
俺を見て、一目で助からないと判断して、行った。
…それでいい。
振り返るな、前だけ見てろ。
死んだ奴ら、殺した奴ら。
還ってこない奴らの為に足を止めるな。
行け。行っちまえ。
今、生きている事にだけ集中しろ。
意味なんざ後から、いくらでも付けろ。
生き残った事を罪にするな。
その背中だけ、見せてくれたら良い。
未来へ駆ける背中達を最期に見て
俺の心臓は、停まった。
ないものねだり
※欠損表現
「これ、ちょうだい」
私は右足を差し出した。
「これ、ちょうだい」
私は左腕をもぎ取った。
「これ、ちょうだい」
私は左目をくり抜いた。
「これ、ちょうだい」
私は内臓の一つを抜き取った。
「これ、ちょうだい」
「駄目」
私は初めて拒否した。
貴方が指差したのは胸。心臓。もっと、奥。
心。
「これはあげられないの」
貴方は泣いた。
大きな癇癪声をあげて、子どもみたいにぼろぼろと。
良かった。ないものねだりじゃなくて。
私が欲しかったのは、貴方の涙だった。
好きじゃないのに
「アンタって、本当はシチュー好きじゃないでしょ?」
捨て子だった俺を拾ってくれた人。その内の一人、『長女』にあたる女の子の得意料理がシチューだった。
というか、それしかできない。洗濯も裁縫も掃除もできる、むしろ集団で生活していた時は司令塔となって『弟』や『妹』に指示を出していたしっかり者だか、料理だけは苦手だった。
理由としては、極貧生活が続いたせいで不味いのハードルが下がりまくっているようだった。
食えれば何でもいい。実際、そのシチューの中身だって牛乳はぎりぎりまで薄め、具は道端で採ってきたきのこや雑草。肉は滅多に入らない。
それでも、味は良かった。
他の料理は不味いのに。
以前、理由を聞いてみた。
あの人が、好きだって言ったからと。
『長女』が俺達の『父親』に、それ以上の想いを抱いていることは、当人達以外が全員知っていた。
「こればっかり作っていたから、シチューだけは美味くなったんだよな、きっと」
『父親』は苦笑いしながら、俺の杯に安酒を注いだ。
「酒のつまみにならねぇんだよなぁ」
「おう。俺も呑むようになって気づいたわ」
カッと熱くなる喉。俺は切ったサラミとチーズを同時につまんだ。
「で、何で嘘吐いたんだ?」
「嘘、つーか……まぁ何でも良かったんだよ」
気まずそうに目線を外すと、ぽつりぽつりと話してくれた。
「材料費が安くて、栄養がとれて、ついでに一度で大量に作れて………ちょっと練習すれば、子どもでも作れる料理なら、何でも」
「…あ」
何でもやりたがりな『長女』。
仕方ないな、と言いながら、頼られると嬉しいのを隠しきれない。
一時は二人きりで暮らしていた。
きっと、今と変わらないなら…。
「アイツには、内緒な」
照れくさそうに人差し指を立てる『父親』。
俺は了解、と言いながら、杯と杯を合わせた。