ところにより雨
桜が咲いていた。
綺麗だな、と思いながらブラウン管の画面へ目を向ける。
内地(本州のこと)はもう満開か、と思いきや、よく見ると去年の映像で肩を落とす。
札幌は朝から雨、いやみぞれである。
雪じゃなくて花びらが混ざってくれたらいいのに。
と思いながらカップの中身を空にした。次は何を飲もう。
暦では春なのに、ここは寒くて暗い。
部屋の中なのに、ストーブは片付けてしまった。
テレビでは他所の桜。
よし。
被っていた毛布を跳ね除けると、部屋の戸棚からとっておきを取り出した。
桜のリキュール。塩漬けの本物が入っている。
紅茶を淹れて、数滴垂らそう。一輪だけの小瓶をテレビの横に並べよう。
外は雨だけど、待ちきれない花見をしよう。
機嫌は自分で取らないとね。
クッキーの皿を用意している間に、画面は過去から現在へと変わっていた。
向こうも大雨。
桜雨だった。
特別な存在
『好きな人が幸せなら、例え結ばれなくても、私も幸せ』
…なんて、善い子ぶってんじゃないわよ。
『一生不幸で構わない』ぐらい、言ってみなさいよ。
そしたら、慰めてあげる。
親友の私が、一生不幸なんて、させてあげないから。
バカみたい
黙々と文字を綴って、何になる。
何の役にも立ちはしない。
黙々と文字を追い続けて、何になる。
その小説は、人生の為に成りはしない。
黙々と量産性のない休日を過ごして、何になる。
丸一日、頭使って疲れただけだ。
…うるせぇ!!!
そう叫んで駄作は完成した。
嗚呼、この瞬間で全てがチャラに成る。
二人ぼっち
君といれるなら、二人ぼっちで構わない。
本気で思っていた。
世界中の人間が敵になったって、ずっと一緒にいる。
そう思っていたのに。
クラッカーが鳴る、行きつけの喫茶店。
居ると思わなかった友数人が笑っている。
拍手をBGMに、マスターがケーキを運んできた。
サプライズに惚ける私の隣を恋人、いや養子縁組を申し込んだからもう結婚相手だ、が白百合の造花がついたヴェールを被せてきた。
お揃いのものを自分も被ると、耳打ちした。
「このケーキ、貴女のお父さんからよ」
涙が溢れた。
勘当するって言ってたくせに。
世界に二人ぼっちで良いなんて、嘘っぱちだ。
認められる事、祝われる事がこんなに嬉しいなんて。
二人だけなら、永遠に知らなかったね。
夢が醒める前に
嘘を吐いた。
夢の中で、死んだ母親に。
母は僕の頭を、病室でよくやってくれたように優しく撫でて言った。
『もう、大丈夫。母さんがいなくても』
ああ。見守ってくれてたのか。
心配かけたなぁ。
だから、うん、と嘘を吐いた。
大丈夫、なんかじゃないよ。
貴女を失ったその日から、人はいつか死ぬということ、幸せは永遠じゃないんだということを知ってしまった。
そんなこと、あと三十年は知りたくなかったよ。
そうしたら何の迷いもなく幸せになれたのに。
寝る前に隣にいた人を、離れないよう手を握って、起きたら呼吸を確かめて。
幸せなはずなのに、いつか失うんだと怖くなるなんてことなかったのに。
見守ってくれたならまだここにいてよ。
ずっと側にいるって信じさせてよ。
貴女のせいで、いつも悲しいんだよ。
そう言ってやりたかったのに。
嘘を吐いた。
心配かけたくない、からじゃない。
ねぇ母さん。
夢から醒めても、まだ嘘を吐き続けるよ。
人はいつか死んでしまうけれど、幸せはいつまでも続かないけど。
大丈夫じゃないのに、大丈夫って。
あの日最期に言ったみたいに、強がって生きていくよ。
貴女と同じぐらい、愛する人ができたから。