千歳緑

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好きじゃないのに

「アンタって、本当はシチュー好きじゃないでしょ?」

 捨て子だった俺を拾ってくれた人。その内の一人、『長女』にあたる女の子の得意料理がシチューだった。

 というか、それしかできない。洗濯も裁縫も掃除もできる、むしろ集団で生活していた時は司令塔となって『弟』や『妹』に指示を出していたしっかり者だか、料理だけは苦手だった。
 理由としては、極貧生活が続いたせいで不味いのハードルが下がりまくっているようだった。
 食えれば何でもいい。実際、そのシチューの中身だって牛乳はぎりぎりまで薄め、具は道端で採ってきたきのこや雑草。肉は滅多に入らない。
 それでも、味は良かった。
 他の料理は不味いのに。
 以前、理由を聞いてみた。

 あの人が、好きだって言ったからと。

『長女』が俺達の『父親』に、それ以上の想いを抱いていることは、当人達以外が全員知っていた。

「こればっかり作っていたから、シチューだけは美味くなったんだよな、きっと」

『父親』は苦笑いしながら、俺の杯に安酒を注いだ。

「酒のつまみにならねぇんだよなぁ」

「おう。俺も呑むようになって気づいたわ」

 カッと熱くなる喉。俺は切ったサラミとチーズを同時につまんだ。

「で、何で嘘吐いたんだ?」

「嘘、つーか……まぁ何でも良かったんだよ」

 気まずそうに目線を外すと、ぽつりぽつりと話してくれた。

「材料費が安くて、栄養がとれて、ついでに一度で大量に作れて………ちょっと練習すれば、子どもでも作れる料理なら、何でも」

「…あ」

 何でもやりたがりな『長女』。
 仕方ないな、と言いながら、頼られると嬉しいのを隠しきれない。
 一時は二人きりで暮らしていた。
 きっと、今と変わらないなら…。

「アイツには、内緒な」

 照れくさそうに人差し指を立てる『父親』。
 俺は了解、と言いながら、杯と杯を合わせた。

3/25/2026, 2:20:17 PM