千歳緑

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大切なもの



 大切だった。
 だから、鍵をかけた。

 檻は逃げ出さないようにではなく、
 外側から傷付けられないようにだった。



 大切だった。
 だから、高い場所に置いた。

 見上げればそこにいる、
 女神のような存在にするために。


 
 大切だった。
 だから、歩けないようにした。

 わかりやすい『弱さ』を与え、
 誰かが手を差し伸べてくれるように。



 全て、嘘だ。



 どこにも行って欲しくなかった。
 お前がいなくなったら、壊れてしまう。
 一番大切だったのは、自分の心だけ。
 お前自身はどうでもいいのさ。
 


 お前自身は……。





 大切だった。
 だから、恨まない。

 これだけは、本心だ。





 空っぽの檻の中、腹部を刺された男は血を流し、やがて息絶えた。

 

 





4/2/2026, 1:55:34 PM