ないものねだり
※欠損表現
「これ、ちょうだい」
私は右足を差し出した。
「これ、ちょうだい」
私は左腕をもぎ取った。
「これ、ちょうだい」
私は左目をくり抜いた。
「これ、ちょうだい」
私は内臓の一つを抜き取った。
「これ、ちょうだい」
「駄目」
私は初めて拒否した。
貴方が指差したのは胸。心臓。もっと、奥。
心。
「これはあげられないの」
貴方は泣いた。
大きな癇癪声をあげて、子どもみたいにぼろぼろと。
良かった。ないものねだりじゃなくて。
私が欲しかったのは、貴方の涙だった。
好きじゃないのに
「アンタって、本当はシチュー好きじゃないでしょ?」
捨て子だった俺を拾ってくれた人。その内の一人、『長女』にあたる女の子の得意料理がシチューだった。
というか、それしかできない。洗濯も裁縫も掃除もできる、むしろ集団で生活していた時は司令塔となって『弟』や『妹』に指示を出していたしっかり者だか、料理だけは苦手だった。
理由としては、極貧生活が続いたせいで不味いのハードルが下がりまくっているようだった。
食えれば何でもいい。実際、そのシチューの中身だって牛乳はぎりぎりまで薄め、具は道端で採ってきたきのこや雑草。肉は滅多に入らない。
それでも、味は良かった。
他の料理は不味いのに。
以前、理由を聞いてみた。
あの人が、好きだって言ったからと。
『長女』が俺達の『父親』に、それ以上の想いを抱いていることは、当人達以外が全員知っていた。
「こればっかり作っていたから、シチューだけは美味くなったんだよな、きっと」
『父親』は苦笑いしながら、俺の杯に安酒を注いだ。
「酒のつまみにならねぇんだよなぁ」
「おう。俺も呑むようになって気づいたわ」
カッと熱くなる喉。俺は切ったサラミとチーズを同時につまんだ。
「で、何で嘘吐いたんだ?」
「嘘、つーか……まぁ何でも良かったんだよ」
気まずそうに目線を外すと、ぽつりぽつりと話してくれた。
「材料費が安くて、栄養がとれて、ついでに一度で大量に作れて………ちょっと練習すれば、子どもでも作れる料理なら、何でも」
「…あ」
何でもやりたがりな『長女』。
仕方ないな、と言いながら、頼られると嬉しいのを隠しきれない。
一時は二人きりで暮らしていた。
きっと、今と変わらないなら…。
「アイツには、内緒な」
照れくさそうに人差し指を立てる『父親』。
俺は了解、と言いながら、杯と杯を合わせた。
ところにより雨
桜が咲いていた。
綺麗だな、と思いながらブラウン管の画面へ目を向ける。
内地(本州のこと)はもう満開か、と思いきや、よく見ると去年の映像で肩を落とす。
札幌は朝から雨、いやみぞれである。
雪じゃなくて花びらが混ざってくれたらいいのに。
と思いながらカップの中身を空にした。次は何を飲もう。
暦では春なのに、ここは寒くて暗い。
部屋の中なのに、ストーブは片付けてしまった。
テレビでは他所の桜。
よし。
被っていた毛布を跳ね除けると、部屋の戸棚からとっておきを取り出した。
桜のリキュール。塩漬けの本物が入っている。
紅茶を淹れて、数滴垂らそう。一輪だけの小瓶をテレビの横に並べよう。
外は雨だけど、待ちきれない花見をしよう。
機嫌は自分で取らないとね。
クッキーの皿を用意している間に、画面は過去から現在へと変わっていた。
向こうも大雨。
桜雨だった。
特別な存在
『好きな人が幸せなら、例え結ばれなくても、私も幸せ』
…なんて、善い子ぶってんじゃないわよ。
『一生不幸で構わない』ぐらい、言ってみなさいよ。
そしたら、慰めてあげる。
親友の私が、一生不幸なんて、させてあげないから。
バカみたい
黙々と文字を綴って、何になる。
何の役にも立ちはしない。
黙々と文字を追い続けて、何になる。
その小説は、人生の為に成りはしない。
黙々と量産性のない休日を過ごして、何になる。
丸一日、頭使って疲れただけだ。
…うるせぇ!!!
そう叫んで駄作は完成した。
嗚呼、この瞬間で全てがチャラに成る。