千歳緑

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3/26/2026, 1:10:20 PM

ないものねだり 
※欠損表現



「これ、ちょうだい」

 私は右足を差し出した。

「これ、ちょうだい」

 私は左腕をもぎ取った。

「これ、ちょうだい」

 私は左目をくり抜いた。

「これ、ちょうだい」

 私は内臓の一つを抜き取った。

「これ、ちょうだい」

「駄目」

 私は初めて拒否した。
 貴方が指差したのは胸。心臓。もっと、奥。

 心。

「これはあげられないの」

 貴方は泣いた。
 大きな癇癪声をあげて、子どもみたいにぼろぼろと。



 良かった。ないものねだりじゃなくて。



 私が欲しかったのは、貴方の涙だった。

3/25/2026, 2:20:17 PM

好きじゃないのに

「アンタって、本当はシチュー好きじゃないでしょ?」

 捨て子だった俺を拾ってくれた人。その内の一人、『長女』にあたる女の子の得意料理がシチューだった。

 というか、それしかできない。洗濯も裁縫も掃除もできる、むしろ集団で生活していた時は司令塔となって『弟』や『妹』に指示を出していたしっかり者だか、料理だけは苦手だった。
 理由としては、極貧生活が続いたせいで不味いのハードルが下がりまくっているようだった。
 食えれば何でもいい。実際、そのシチューの中身だって牛乳はぎりぎりまで薄め、具は道端で採ってきたきのこや雑草。肉は滅多に入らない。
 それでも、味は良かった。
 他の料理は不味いのに。
 以前、理由を聞いてみた。

 あの人が、好きだって言ったからと。

『長女』が俺達の『父親』に、それ以上の想いを抱いていることは、当人達以外が全員知っていた。

「こればっかり作っていたから、シチューだけは美味くなったんだよな、きっと」

『父親』は苦笑いしながら、俺の杯に安酒を注いだ。

「酒のつまみにならねぇんだよなぁ」

「おう。俺も呑むようになって気づいたわ」

 カッと熱くなる喉。俺は切ったサラミとチーズを同時につまんだ。

「で、何で嘘吐いたんだ?」

「嘘、つーか……まぁ何でも良かったんだよ」

 気まずそうに目線を外すと、ぽつりぽつりと話してくれた。

「材料費が安くて、栄養がとれて、ついでに一度で大量に作れて………ちょっと練習すれば、子どもでも作れる料理なら、何でも」

「…あ」

 何でもやりたがりな『長女』。
 仕方ないな、と言いながら、頼られると嬉しいのを隠しきれない。
 一時は二人きりで暮らしていた。
 きっと、今と変わらないなら…。

「アイツには、内緒な」

 照れくさそうに人差し指を立てる『父親』。
 俺は了解、と言いながら、杯と杯を合わせた。

3/24/2026, 12:30:36 PM

ところにより雨

 桜が咲いていた。
 綺麗だな、と思いながらブラウン管の画面へ目を向ける。
 内地(本州のこと)はもう満開か、と思いきや、よく見ると去年の映像で肩を落とす。
 札幌は朝から雨、いやみぞれである。
 雪じゃなくて花びらが混ざってくれたらいいのに。
 と思いながらカップの中身を空にした。次は何を飲もう。
 暦では春なのに、ここは寒くて暗い。
 部屋の中なのに、ストーブは片付けてしまった。
 テレビでは他所の桜。

 よし。
 被っていた毛布を跳ね除けると、部屋の戸棚からとっておきを取り出した。
 桜のリキュール。塩漬けの本物が入っている。
 紅茶を淹れて、数滴垂らそう。一輪だけの小瓶をテレビの横に並べよう。
 外は雨だけど、待ちきれない花見をしよう。
 機嫌は自分で取らないとね。

 クッキーの皿を用意している間に、画面は過去から現在へと変わっていた。
 向こうも大雨。
 桜雨だった。
 

3/23/2026, 1:08:05 PM

特別な存在



『好きな人が幸せなら、例え結ばれなくても、私も幸せ』

 …なんて、善い子ぶってんじゃないわよ。

『一生不幸で構わない』ぐらい、言ってみなさいよ。

 そしたら、慰めてあげる。



 親友の私が、一生不幸なんて、させてあげないから。

3/22/2026, 2:17:08 PM

バカみたい 

 黙々と文字を綴って、何になる。
 何の役にも立ちはしない。

 黙々と文字を追い続けて、何になる。
 その小説は、人生の為に成りはしない。

 黙々と量産性のない休日を過ごして、何になる。
 丸一日、頭使って疲れただけだ。



 …うるせぇ!!!



 そう叫んで駄作は完成した。

 嗚呼、この瞬間で全てがチャラに成る。
 

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