二人ぼっち
君といれるなら、二人ぼっちで構わない。
本気で思っていた。
世界中の人間が敵になったって、ずっと一緒にいる。
そう思っていたのに。
クラッカーが鳴る、行きつけの喫茶店。
居ると思わなかった友数人が笑っている。
拍手をBGMに、マスターがケーキを運んできた。
サプライズに惚ける私の隣を恋人、いや養子縁組を申し込んだからもう結婚相手だ、が白百合の造花がついたヴェールを被せてきた。
お揃いのものを自分も被ると、耳打ちした。
「このケーキ、貴女のお父さんからよ」
涙が溢れた。
勘当するって言ってたくせに。
世界に二人ぼっちで良いなんて、嘘っぱちだ。
認められる事、祝われる事がこんなに嬉しいなんて。
二人だけなら、永遠に知らなかったね。
夢が醒める前に
嘘を吐いた。
夢の中で、死んだ母親に。
母は僕の頭を、病室でよくやってくれたように優しく撫でて言った。
『もう、大丈夫。母さんがいなくても』
ああ。見守ってくれてたのか。
心配かけたなぁ。
だから、うん、と嘘を吐いた。
大丈夫、なんかじゃないよ。
貴女を失ったその日から、人はいつか死ぬということ、幸せは永遠じゃないんだということを知ってしまった。
そんなこと、あと三十年は知りたくなかったよ。
そうしたら何の迷いもなく幸せになれたのに。
寝る前に隣にいた人を、離れないよう手を握って、起きたら呼吸を確かめて。
幸せなはずなのに、いつか失うんだと怖くなるなんてことなかったのに。
見守ってくれたならまだここにいてよ。
ずっと側にいるって信じさせてよ。
貴女のせいで、いつも悲しいんだよ。
そう言ってやりたかったのに。
嘘を吐いた。
心配かけたくない、からじゃない。
ねぇ母さん。
夢から醒めても、まだ嘘を吐き続けるよ。
人はいつか死んでしまうけれど、幸せはいつまでも続かないけど。
大丈夫じゃないのに、大丈夫って。
あの日最期に言ったみたいに、強がって生きていくよ。
貴女と同じぐらい、愛する人ができたから。
胸が高鳴る
右手を取られた。
手のひらに頬を当てられる。
目は構え、と命令してくる。
「仕事中ー」
逆の手でスマホをタップする。書面を見るだけならそれでいい。
すり、と頬擦り。解放の気はないようだ。
(頭でも撫でたら満足するか? 逆に怒りそうだな)
そう思っていたら、手首を包み込むように両の手で拘束される。
ちゅ、と音を立てて、口付けされた。
(あーあ、子憎たらしいワザ覚えやがって…)
「どきどき、しない?」
「しねーよクソガキ」
ティーンのガキじゃあるまいし。と続けると、手のひらの感触から、奴がニンマリ笑ったのがわかった。
「手首、ふっといよねー。こんだけ太けりゃ脈拍もわかりやす…」
俺はすぐさま右手を力任せに振り解き、そのまま奴の脳天にチョップを叩きこんだ。
不条理
不条理といえば、不条理文学カフカの『変身』。
何の予備知識もなく、読んで後悔した。
とにかく主人公がかわいそうで、家族が断罪されない事に怒りを憶えた。
数年後。
私は介護の職に就く。
私はあの家族達を否定できなくなってしまった。
泣かないよ
「俺がいなくなったら、アンタ泣くか?」
「全然」
即答すんなよ。と心で毒付く。
「だってさぁ」
背後から手を伸ばし、耳元で囁くように言った。
「お前がいなくなったら、宇宙の果てまで探しにいく」
見えなくてもわかる。すごくにこにこしている。
「泣いてるヒマなんかないだろー?」
「はは…こえーよ」
苦笑いしか出来なかった。
まぁ、なんでもいいよ。
アンタが泣かないなら、なんだって。