千歳緑

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3/21/2026, 11:38:11 AM

二人ぼっち

 君といれるなら、二人ぼっちで構わない。
 本気で思っていた。
 世界中の人間が敵になったって、ずっと一緒にいる。

 そう思っていたのに。



 クラッカーが鳴る、行きつけの喫茶店。
 居ると思わなかった友数人が笑っている。
 拍手をBGMに、マスターがケーキを運んできた。
 
 サプライズに惚ける私の隣を恋人、いや養子縁組を申し込んだからもう結婚相手だ、が白百合の造花がついたヴェールを被せてきた。
 お揃いのものを自分も被ると、耳打ちした。

「このケーキ、貴女のお父さんからよ」

 涙が溢れた。
 勘当するって言ってたくせに。



 世界に二人ぼっちで良いなんて、嘘っぱちだ。
 認められる事、祝われる事がこんなに嬉しいなんて。
 二人だけなら、永遠に知らなかったね。










 

3/20/2026, 2:17:11 PM

夢が醒める前に

 嘘を吐いた。
 夢の中で、死んだ母親に。
 母は僕の頭を、病室でよくやってくれたように優しく撫でて言った。

『もう、大丈夫。母さんがいなくても』

 ああ。見守ってくれてたのか。
 心配かけたなぁ。
 だから、うん、と嘘を吐いた。



 大丈夫、なんかじゃないよ。

 貴女を失ったその日から、人はいつか死ぬということ、幸せは永遠じゃないんだということを知ってしまった。
 そんなこと、あと三十年は知りたくなかったよ。
 そうしたら何の迷いもなく幸せになれたのに。
 寝る前に隣にいた人を、離れないよう手を握って、起きたら呼吸を確かめて。
 幸せなはずなのに、いつか失うんだと怖くなるなんてことなかったのに。
 見守ってくれたならまだここにいてよ。
 ずっと側にいるって信じさせてよ。
 貴女のせいで、いつも悲しいんだよ。

 そう言ってやりたかったのに。
 嘘を吐いた。
 心配かけたくない、からじゃない。



 ねぇ母さん。
 夢から醒めても、まだ嘘を吐き続けるよ。
 人はいつか死んでしまうけれど、幸せはいつまでも続かないけど。
 大丈夫じゃないのに、大丈夫って。
 あの日最期に言ったみたいに、強がって生きていくよ。
 
 


 貴女と同じぐらい、愛する人ができたから。

3/19/2026, 1:23:14 PM

胸が高鳴る 

 右手を取られた。
 手のひらに頬を当てられる。
 目は構え、と命令してくる。

「仕事中ー」

 逆の手でスマホをタップする。書面を見るだけならそれでいい。
 すり、と頬擦り。解放の気はないようだ。

(頭でも撫でたら満足するか? 逆に怒りそうだな)

 そう思っていたら、手首を包み込むように両の手で拘束される。
 ちゅ、と音を立てて、口付けされた。

(あーあ、子憎たらしいワザ覚えやがって…)

「どきどき、しない?」
「しねーよクソガキ」

 ティーンのガキじゃあるまいし。と続けると、手のひらの感触から、奴がニンマリ笑ったのがわかった。

「手首、ふっといよねー。こんだけ太けりゃ脈拍もわかりやす…」

 俺はすぐさま右手を力任せに振り解き、そのまま奴の脳天にチョップを叩きこんだ。

 

3/18/2026, 11:50:00 AM

不条理

 不条理といえば、不条理文学カフカの『変身』。
 何の予備知識もなく、読んで後悔した。
 とにかく主人公がかわいそうで、家族が断罪されない事に怒りを憶えた。

 数年後。
 私は介護の職に就く。

 私はあの家族達を否定できなくなってしまった。

3/17/2026, 1:41:20 PM

泣かないよ

「俺がいなくなったら、アンタ泣くか?」
「全然」

 即答すんなよ。と心で毒付く。

「だってさぁ」

 背後から手を伸ばし、耳元で囁くように言った。



「お前がいなくなったら、宇宙の果てまで探しにいく」

 

 見えなくてもわかる。すごくにこにこしている。

「泣いてるヒマなんかないだろー?」
「はは…こえーよ」

 苦笑いしか出来なかった。



 まぁ、なんでもいいよ。
 アンタが泣かないなら、なんだって。

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