龍那

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4/29/2023, 1:49:07 PM

[風に乗って]

 噂が風に乗ってきた。
 ひらりと飛んできたそれを捕まえて、読む。
「ふむふむ。井戸を覗くと影がこっちを見上げてる……なるほどなるほど。これはよくある怪談だねえ」
 読み終えたそれを台帳に書き留めて。小さく小さく折りたたむ。
 そして、ぱくり、と口に放り込んだ。
 べっこう飴に似た重たい甘さが、とろりと溶けて舌に絡む。
 美味しいと思ったのは最初だけで、飲み込んで残ったのは、薄くてスカスカとした、軽くて物足りない味。
「うーん。これは……100日くらい経ってるのかもなあ」
 次はもっと新鮮な噂を食べたいなあと思いながら、台帳を棚に戻した。
 

4/29/2023, 12:40:22 AM

[刹那]

 タイトルを書き込んで。
 こういうのを書こう、って考えて。
 一文字目をタップしたその刹那。

 朝だったって訳ですよ。

4/28/2023, 12:22:13 AM

[生きる意味]

 あの日、俺の家は全員死んだ。
 俺がただひとり生き残ったのは。単に運が良かったのだろう。
 原因は分からない。朝起きたら全員冷たくなっていた。
 生き残っただけではない。
 あの日以来、俺は何をしても死ねなくなった。
 親も。兄妹も。疑惑と誹謗を向けた者も。
 来世こそはと誓って沈んだ彼女も。
 みんな、いなくなった。

「……」
 雑踏を眺めて時間を潰していると、自分はどうして生きているのかと考える。
 分からない。ただ、運だけで生かされている。考えても無駄なのに、いつも考えてしまう。理由を求めてしまう。
 結局見つかることはなく、諦めて雑踏に混じる。
 この中は楽だ。誰も俺を見ない。羨望も誹謗もない。意味もなく生きていられる。

 そうして屍のように歩いていると。
「あの!」
 声が、かけられた。
 あまりに突然の出来事で、思わず足を止めて振り返り。
 呼吸が。一瞬止まった。

 見たことのない少女だった。
 けど。
 その影に、彼女の姿が、揺れて。消えた。

「……あの、何か」
 彼女は頬を紅潮させて、こう言った。

「あ、あの……初めまして、昔から好きでした! 私のこと覚えてますか?」

 これが。この一言が。
 生きる意味に似たものを見つけるきっかけになるとは、全く思っていなかった。

4/26/2023, 1:12:34 PM

[善悪]

「人間を善悪で分けるのは難しいんですよ」
 と、彼は困ったように言った。
 トランプからカードを1枚抜き取り、クルクルと回す。
「裏表みたいに別れてたら僕としても楽なんですけどね。どっちかと言うと磁石のようなものだと思うんです」
 切っても切っても、N極S極があるように、人間どう切り分けても必ず善悪が端に現れる。

「と、言うわけでですね。偏りはあるでしょうけど、どちらにも善悪がある。そう言う認識でいいでしょう」
 まあ、理論の立証はされました。と、彼は満足げにトランプを僕に向けて困ったように笑った。
「さて、どっちの僕を残すのがいいんでしょうね」

4/25/2023, 10:13:24 AM

[流れ星に願いを]

 流れ星に願い事を3回唱えると叶うと言う。
 でも、あんな一瞬で消える星にどうやって唱えるんだって言うから、私考えたの。
 
「だからって隕石を降らせるバカがどこにいる!!」
 せっかく3回唱えられるだけの時間がある流れ星を出して見せたのに、師匠は「今すぐ消えろ」って願いで消化したし、めちゃくちゃ怒られた。
 もっと違う方向から考えろと説教されたので、次は普通の流れ星が出た瞬間に、世界の時間を止めてみようと思いました。

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