[生きる意味]
あの日、俺の家は全員死んだ。
俺がただひとり生き残ったのは。単に運が良かったのだろう。
原因は分からない。朝起きたら全員冷たくなっていた。
生き残っただけではない。
あの日以来、俺は何をしても死ねなくなった。
親も。兄妹も。疑惑と誹謗を向けた者も。
来世こそはと誓って沈んだ彼女も。
みんな、いなくなった。
「……」
雑踏を眺めて時間を潰していると、自分はどうして生きているのかと考える。
分からない。ただ、運だけで生かされている。考えても無駄なのに、いつも考えてしまう。理由を求めてしまう。
結局見つかることはなく、諦めて雑踏に混じる。
この中は楽だ。誰も俺を見ない。羨望も誹謗もない。意味もなく生きていられる。
そうして屍のように歩いていると。
「あの!」
声が、かけられた。
あまりに突然の出来事で、思わず足を止めて振り返り。
呼吸が。一瞬止まった。
見たことのない少女だった。
けど。
その影に、彼女の姿が、揺れて。消えた。
「……あの、何か」
彼女は頬を紅潮させて、こう言った。
「あ、あの……初めまして、昔から好きでした! 私のこと覚えてますか?」
これが。この一言が。
生きる意味に似たものを見つけるきっかけになるとは、全く思っていなかった。
4/28/2023, 12:22:13 AM