トポテ

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2/11/2024, 1:45:18 PM

雪が降った日はよくこの場所に来ていた。
ここは屋根になるものがなくて地面もレンガでよく冷えてるから、ここには真っ白で綺麗な雪がたくさん積もる。
ここに連れてきてもらえる度に雪だるまを作る。
だから、ここに来た数だけ雪だるまが増える。
ある日、ぼくが作った雪だるま以外に、もう1つ不格好な雪だるまがあった。
「あら、チハヤ以外にもここに来る人がいるのね」
お母さんはぼくの前髪に乗った雪を払いながら、ふふ。と笑った。その日は、不格好な雪だるまの隣にもう1つ雪だるまを作った。
「お友達作ったよ!」
「上手にできたわね。もう鼻が真っ赤、風邪ひく前に帰りましょ」
お母さんに手を引かれて家へ帰った。
また雪が降った日。珍しい大雪だった。
また、あの場所に行った。
足首が余裕で埋まるほど、いつもより雪が積もっていた。履いてきた長靴の中に雪が入って冷たかった。
膝をしっかり上げて大きく歩き雪を踏むとざく、ざく、と音がした。
階段を登ると、しゃがみながら雪玉をつくっている同い年くらいの男の子がいた。
「あ」
男の子が雪玉を持ちながらこちらを見た。
お母さんがぼくの背中をぽんぽんと叩く。
「こんにちは」
お母さんに促されて声をかけてみる。
「こんにちは」
男の子はしゃがみながら頭を少し下げた。
ぼくがお母さんの方を見ると、「遊んできな」と僕の背中を押した。
「これやる」
僕が男の子に近づくと雪玉を差し出された。
「ありがとう」
意図を読み取る前に雪玉を受け取る。
「ぼく──って言うんだ!」
「おれは──、よろしくな」
ぼくは赤色の手袋で、彼の手を握った。手袋の上からでも手が冷たさが伝わった。
ぼくらが雪玉を握っている間も、しんしんと雪が音もなく振り続けていた。
銀色の髪の上で白く明るい雪が輝いていた。
「雪のってる」
ぼくはお母さんがやってくれたことを思い出し、彼の頭に降り積もる雪をはらった。
頭の上の雪が髪から落ちると彼はぎゅっと目をつぶった。「いいよ」と言うと目を開けた。
すると視線がぼくの頭にうつった。
「あんたも」
彼はそう言ってぼくの頭をはらった。
十数分経つとお互い雪玉がほどほどに大きくなっていた。
2人の使った雪玉を積み上げ雪だるまを作った。
そこらの小さな石を雪玉に飾り付け顔を作り、枝を指し腕を作ってあげた。
(上手く作れた)
心の中でえっへんと胸を張った。
「帰る」
彼は立ち上がった。
「じゃあ」
彼は手を振り、ぼくが来た反対側の階段の方を向いた。ぼくも「じゃあね」と手を振った。
「じゃあ私達も帰ろっか」
お母さんが腰を曲げぼくに後ろから話しかける。
その日も手を繋いで家に帰った。
その日から雪が降る度彼と雪だるまを作っていた。会った回数分だけ雪だるまが増えた。
はじめは不格好だった彼の雪玉が今ではほとんど真ん丸になっていた。
暖かくなり、雪の溶けが早くなった頃、あの場所に行っても彼と会うことはなくなった。
彼と会う前はずっと1人で雪だるま作っていたのに、いざまた1人に戻ると寂しくなる。
今まで彼と作ってきた雪だるまが溶けて少しだけ形が崩れていた。
何となく、下がっていた木の枝でできた腕だけを元の位置まで上げた。


──この場所で

2/10/2024, 1:45:55 PM

彼と街を歩くとすれ違った誰もがみんな振り返る。
目立つ銀髪に鍛えられた体に慢性な顔立ち。
そんなのと街ですれ違っちゃったら振り返ってしまうのもしょうがない。
初めはびっくりしたけど、今はもう慣れた。
こんな彼の隣にいていいのか不安になることもある。だけど、そんなこと思うたびに彼は心のうちを察してくれて優しい言葉で慰めてくれる。

──誰もがみんな

2/9/2024, 1:13:17 PM

「薔薇の花束をください」
「本数に希望はありますか?」
「11本で」

カランコロン
喫茶店のドアを開ける。
「チハヤ」
カウンターで珈琲豆を砕くチハヤに声をかける。
すぐに背中に花束を隠した。
「セイヤ!何かあった?」
カウンターの前に立つ。チハヤは首を傾げた。
満を持して、ばっと花束をチハヤの方に向ける。辺りに薔薇の香りがほんのりと広がる。
チハヤは薔薇の花束を見て目を見開く。
「薔薇?」
「受け取ってくれ。あんた宛だ」
チハヤはおろおろと困惑しながら、ゆっくりと花束を両手で受け取る。
チハヤは薔薇の匂いを香り、嬉しげに頬を薔薇と同じ色に染めた。
「嬉しい。ありがとう。今日何かあったっけ?」
「いや、特に何かあるわけじゃない。花屋を見かけたから、あんたに教えてあげようと思って」
俺はカウンター席に座る。
「花束をくれなくても、ただ言って教えてくれればいいのに」
「あんたに花束を送りたかったんだ」
「そっか」
チハヤはうっとりと花束を見つめる。
「何飲みたい?」
「今日もあんたのおすすめをいれてくれ」
「うん、まかせて」

次の日からカウンターには1本の薔薇が飾られるよつになった。

──花束

2/8/2024, 12:48:45 PM

あいつの笑顔が好きだ。
あいつは笑うと困り眉になる。綺麗な平行二重の線が深くなって涙袋が膨らむ。
柔らかく、優しい可愛らしい笑顔。
あいつの笑顔を見ると、自然と笑顔がうつる。
いつまでも俺の隣で笑っていて欲しい。
俺はその笑顔を守ることが、この世界において俺の役割なのでは。と最近真面目に思っている。

──スマイル

2/7/2024, 11:10:09 AM

"どこにも書けないこと"は、 どこにも書きたくないことでもあり、言えないことでもあり、言いたくないことでもある。
僕にとっては、はやく忘れたいことでもある。
でも、今日はここに書いてみようと思った。
紙に書いて記録すると『記録する=忘れてもいい許可』が、頭の中で起こって忘れられると聞いたから
二度と消せないように、ボールペンを右手に持ち、紙の上にペン先を置く。
言葉を選んでいるうちに紙に黒いインクのシミが少しずつ広がっている。それに急かされるように文頭を書き始めた。
『僕は彼を好きになってしまった。
ちゃんと認めたのはXXXX年X月XX日
この日より前にうーっすら、もしかしたら。と思ってはいたけどその頃は知らないふりしてた。
認めざるを得なくなったきっかけ⤵︎ ︎
始まりは僕が働いてるカフェに彼が来たこと。
店に入るなり、彼は僕の顔を見つけてはしっかり目を合わせてにこっと笑い、僕の前のカウンター席に座った。
「あんたのおすすめを淹れてくれ」そう言われて、棚から茶葉を選んでる間、後ろにいる彼に耳が赤くなっていることをバレませんように。と無意識に願ってしまったこと。
今思い出しただけでもやるせない気持ちになる。
彼の名前は』
ぷるるる、ぷるるるる
スマホがなっている。画面を見ると、丸いアイコンの下に彼の名前があった。ひと呼吸おいて緑色の電話マークをスライドし、スマホを耳に当てる。
「もしもし」
声を聴いただけでも心臓がどきどきする。ほんとに書いただけで忘れられるのだろうか。
「どうした?声が暗いぞ」
「え、あ、大丈夫」
「そうか。ならいいんだ」

はぁー。効果には期待しない方が良さそうだ。

── どこにも書けないこと

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