雪が降った日はよくこの場所に来ていた。
ここは屋根になるものがなくて地面もレンガでよく冷えてるから、ここには真っ白で綺麗な雪がたくさん積もる。
ここに連れてきてもらえる度に雪だるまを作る。
だから、ここに来た数だけ雪だるまが増える。
ある日、ぼくが作った雪だるま以外に、もう1つ不格好な雪だるまがあった。
「あら、チハヤ以外にもここに来る人がいるのね」
お母さんはぼくの前髪に乗った雪を払いながら、ふふ。と笑った。その日は、不格好な雪だるまの隣にもう1つ雪だるまを作った。
「お友達作ったよ!」
「上手にできたわね。もう鼻が真っ赤、風邪ひく前に帰りましょ」
お母さんに手を引かれて家へ帰った。
また雪が降った日。珍しい大雪だった。
また、あの場所に行った。
足首が余裕で埋まるほど、いつもより雪が積もっていた。履いてきた長靴の中に雪が入って冷たかった。
膝をしっかり上げて大きく歩き雪を踏むとざく、ざく、と音がした。
階段を登ると、しゃがみながら雪玉をつくっている同い年くらいの男の子がいた。
「あ」
男の子が雪玉を持ちながらこちらを見た。
お母さんがぼくの背中をぽんぽんと叩く。
「こんにちは」
お母さんに促されて声をかけてみる。
「こんにちは」
男の子はしゃがみながら頭を少し下げた。
ぼくがお母さんの方を見ると、「遊んできな」と僕の背中を押した。
「これやる」
僕が男の子に近づくと雪玉を差し出された。
「ありがとう」
意図を読み取る前に雪玉を受け取る。
「ぼく──って言うんだ!」
「おれは──、よろしくな」
ぼくは赤色の手袋で、彼の手を握った。手袋の上からでも手が冷たさが伝わった。
ぼくらが雪玉を握っている間も、しんしんと雪が音もなく振り続けていた。
銀色の髪の上で白く明るい雪が輝いていた。
「雪のってる」
ぼくはお母さんがやってくれたことを思い出し、彼の頭に降り積もる雪をはらった。
頭の上の雪が髪から落ちると彼はぎゅっと目をつぶった。「いいよ」と言うと目を開けた。
すると視線がぼくの頭にうつった。
「あんたも」
彼はそう言ってぼくの頭をはらった。
十数分経つとお互い雪玉がほどほどに大きくなっていた。
2人の使った雪玉を積み上げ雪だるまを作った。
そこらの小さな石を雪玉に飾り付け顔を作り、枝を指し腕を作ってあげた。
(上手く作れた)
心の中でえっへんと胸を張った。
「帰る」
彼は立ち上がった。
「じゃあ」
彼は手を振り、ぼくが来た反対側の階段の方を向いた。ぼくも「じゃあね」と手を振った。
「じゃあ私達も帰ろっか」
お母さんが腰を曲げぼくに後ろから話しかける。
その日も手を繋いで家に帰った。
その日から雪が降る度彼と雪だるまを作っていた。会った回数分だけ雪だるまが増えた。
はじめは不格好だった彼の雪玉が今ではほとんど真ん丸になっていた。
暖かくなり、雪の溶けが早くなった頃、あの場所に行っても彼と会うことはなくなった。
彼と会う前はずっと1人で雪だるま作っていたのに、いざまた1人に戻ると寂しくなる。
今まで彼と作ってきた雪だるまが溶けて少しだけ形が崩れていた。
何となく、下がっていた木の枝でできた腕だけを元の位置まで上げた。
──この場所で
2/11/2024, 1:45:18 PM