トポテ

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2/9/2024, 1:13:17 PM

「薔薇の花束をください」
「本数に希望はありますか?」
「11本で」

カランコロン
喫茶店のドアを開ける。
「チハヤ」
カウンターで珈琲豆を砕くチハヤに声をかける。
すぐに背中に花束を隠した。
「セイヤ!何かあった?」
カウンターの前に立つ。チハヤは首を傾げた。
満を持して、ばっと花束をチハヤの方に向ける。辺りに薔薇の香りがほんのりと広がる。
チハヤは薔薇の花束を見て目を見開く。
「薔薇?」
「受け取ってくれ。あんた宛だ」
チハヤはおろおろと困惑しながら、ゆっくりと花束を両手で受け取る。
チハヤは薔薇の匂いを香り、嬉しげに頬を薔薇と同じ色に染めた。
「嬉しい。ありがとう。今日何かあったっけ?」
「いや、特に何かあるわけじゃない。花屋を見かけたから、あんたに教えてあげようと思って」
俺はカウンター席に座る。
「花束をくれなくても、ただ言って教えてくれればいいのに」
「あんたに花束を送りたかったんだ」
「そっか」
チハヤはうっとりと花束を見つめる。
「何飲みたい?」
「今日もあんたのおすすめをいれてくれ」
「うん、まかせて」

次の日からカウンターには1本の薔薇が飾られるよつになった。

──花束

2/8/2024, 12:48:45 PM

あいつの笑顔が好きだ。
あいつは笑うと困り眉になる。綺麗な平行二重の線が深くなって涙袋が膨らむ。
柔らかく、優しい可愛らしい笑顔。
あいつの笑顔を見ると、自然と笑顔がうつる。
いつまでも俺の隣で笑っていて欲しい。
俺はその笑顔を守ることが、この世界において俺の役割なのでは。と最近真面目に思っている。

──スマイル

2/7/2024, 11:10:09 AM

"どこにも書けないこと"は、 どこにも書きたくないことでもあり、言えないことでもあり、言いたくないことでもある。
僕にとっては、はやく忘れたいことでもある。
でも、今日はここに書いてみようと思った。
紙に書いて記録すると『記録する=忘れてもいい許可』が、頭の中で起こって忘れられると聞いたから
二度と消せないように、ボールペンを右手に持ち、紙の上にペン先を置く。
言葉を選んでいるうちに紙に黒いインクのシミが少しずつ広がっている。それに急かされるように文頭を書き始めた。
『僕は彼を好きになってしまった。
ちゃんと認めたのはXXXX年X月XX日
この日より前にうーっすら、もしかしたら。と思ってはいたけどその頃は知らないふりしてた。
認めざるを得なくなったきっかけ⤵︎ ︎
始まりは僕が働いてるカフェに彼が来たこと。
店に入るなり、彼は僕の顔を見つけてはしっかり目を合わせてにこっと笑い、僕の前のカウンター席に座った。
「あんたのおすすめを淹れてくれ」そう言われて、棚から茶葉を選んでる間、後ろにいる彼に耳が赤くなっていることをバレませんように。と無意識に願ってしまったこと。
今思い出しただけでもやるせない気持ちになる。
彼の名前は』
ぷるるる、ぷるるるる
スマホがなっている。画面を見ると、丸いアイコンの下に彼の名前があった。ひと呼吸おいて緑色の電話マークをスライドし、スマホを耳に当てる。
「もしもし」
声を聴いただけでも心臓がどきどきする。ほんとに書いただけで忘れられるのだろうか。
「どうした?声が暗いぞ」
「え、あ、大丈夫」
「そうか。ならいいんだ」

はぁー。効果には期待しない方が良さそうだ。

── どこにも書けないこと

2/6/2024, 11:38:02 AM

時計の針の音と、彼の心地よい寝息だけが部屋の空気を揺らしている。
それらをBGMに読書をすること。なんとなく眠れない夜のちょっとした楽しみだ。
次に読む時間のため読み進めたページの間にしおりを挟み、ぱたんと本を閉じた。
ベット横の机になるべく音を立てないように優しく本を置き、スタンドライトの明かりを消した。
暗くなった部屋で静かな月明かりが彼の銀色の髪をきらきらと輝かせる。
目を瞑り前髪の上からおでこにキスをした。枕に頭を預け目を瞑る。
「口にはしてくれないのか?」
まだ眠そうな彼の声が聞こえて目を開くと、枕から起き上がった朧気な瞳で僕を見つめる彼と目が合った。
彼はぽすっと枕に頭を落とす。そしてもう1度目を閉じ口角を上げて、ん。と唇へのキスを促す。
僕は、はぁ。と花を少し揺らす程度の小さいため息をつく。体を起こし、軽くキスをした。
「おやすみ」
耳元でそう囁いた後ゆっくりと体を元の位置に戻す。
「おやすみ」
『おやすみ』の次に彼は僕の名前を呼んだ。そのしばらく後、また寝息をたて始めた。
月が真南に昇った頃、かち。かち。という規則的な時計の針の回る音と、2人の寝息だけが部屋の空気を揺らしていた。

──時計の針

2/5/2024, 1:36:37 PM

「なぁ、この人。仲良いのか?」
セイヤはスマホの画面を僕に向ける。画面には、僕と男友達が肩を組んだ写真がインスタグラムのストーリーで投稿されていた。このストーリーをあげたアカウントも、写真に映る友達があげたものだ。
「うん、中学の友達。知らないっけ?」
セイヤのスマホの画面から視線をあげセイヤの顔を見る。
「初めて見た」
「あれ?そうだったっけ。セイヤってインスタとかみるんだね」
「たまに」
何気ない会話をして僕はまた、背もたれに寄りかかり、手に持った小説に視線を落とす。2、3行読み進めたところでまたセイヤが口を開く。
「距離近くないか」
いつものセイヤらしくない、力のない暗く沈んだような声色に少し動揺した。顔を上げて、セイヤの横顔を見つめる。一方のセイヤは視線をスマホに落としたまま、こちらと目を合わせようとは全くしない。
「そう?普通だと思うけど…」
スマホを覗き込み、二人の写真を凝視する。
「そうなのか」
セイヤは男友達のストーリーが流れてしまわないように、親指で画面を押さえている。変わらず画面をじっと見つめている。
「そんなに気になる?」
僕は苦笑しながらセイヤに問いかける。
「…」
セイヤはまだ無言のままだ。口を開くが、声は出さない。眉を顰めながら自分の気持ちをどう言うか、言葉を選んでいるようだ。
「やきもち?」
意を決して僕は今までの状況から唯一導き出された答えを口にする。
セイヤは一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの感情が読み取れない無表情に戻ってしまった。
僕は自分で言ってしまったことが恥ずかしくなった。みるみるうちに頬の辺りが熱を持ち始める。
「ごめん、違うよね」
初めの『ご』が裏返って、変な声が出てしまった。もう気にしないようにしよう、と手に持った小説に視線を戻す。文章をちゃんと読んでいるはずなのに内容が全く頭に入ってこない。
2人の間に気まずい沈黙が流れる。
「違わない」
「え」
沈黙を破ったセイヤの言葉に思わず声が出た。自分でも情けない声だったと思う。セイヤの方を向くとセイヤも僕のことをじっと見ていた。一瞬目があったが、反射で僕の方から逸らしてしまった。
セイヤが僕の腕を掴む。腕を掴まれて改めてまじまじとセイヤの顔を見ると、セイヤも頬と耳が赤くなっていた。
「ふふ」
顔を赤くしたセイヤが可愛くてつい笑ってしまった。
「なんで笑うんだ」
セイヤは眉間に皺を寄せる。
「セイヤが妬くなんて珍しいし、可愛いなって」
手に持っていた小説を机に置く。セイヤは目を瞑り、どんどんと顔が赤くなる。
「…ばかにしてるな?」
「してないよ」
セイヤの頭をわしゃわしゃと撫でる。セイヤはいつもは止めるくせに、今日は止めなかった。
「俺が妬くの、べつに珍しくない」
「え?」
「いつも言わないだけだ」
セイヤは腕を引っ張り僕を抱き寄せる。顔がセイヤの胸にあたる。どくんどくんと脈打っていた。
「いきなりどうしたの?」
「今は顔を見られたくない」
服の上からでもセイヤの体が熱い。顔を真っ赤にしたセイヤが目に浮かぶ。
「そもそもあんたは俺以外の人間との距離感が近すぎる。もう少し俺に気を使え。それに前も─」
セイヤは栓が抜け溢れ出す液体のように、今まで不平不満の気持ち諸々を語っている。
こんな長々と語られるのなら次からはちゃんと気をつけようと思った。

──溢れる気持ち

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