「あなたはどうして、わたしのまねをするの?」
そう問いかけても返事は無かった。
そりゃそうだ。
話しかけてるのは鏡に映った自分なのだから。
「…へんなの」
小さい頃の私には、鏡という物が理解出来なかった。
自分と同じ格好の子が、自分と同じ動きをして。
向こうは私の真似ばっかり。
けど、最近考えるようになった。
どっちが本当の私で、どっちが真似してるんだろうって。
【鏡の中の自分】
「きゃっ!て、停電…?」
突然、エレベーターがガタンと揺れ動きを止めた。
辺り一面真っ暗で、ボタンが何処にあるのかも分からなかった。
「どうしよう…怖い」
スマホも持っていないから、連絡手段も無い。
私はカタカタ震えながら助けを待った。
『大丈夫ですか!!聞こえますか!』
何処からか大きな声が聞こえる。きっと助けだ。
「き、聞こえます!!助けてください!」
『………』
『よかった。まずは落ち着いて』
『今、消防の方に連絡したので安心してください』
「ありがとうございます…」
私は安堵し、ポロポロと泣き崩れてしまった。
『大丈夫です。消防の到着まで僕がここに居ますから』
何故か聞き慣れたような、そんな優しい声に
私は自然と癒されていた。
『暗いところ、苦手ですか?』
「…はい。昔から怖くって」
変わってないね。そうボソッと聞こえた気がした。
「…そういえば、お名前…なんて言うんですか」
『…拓也(たくや)です』
「え」
その瞬間、ドタドタと複数人が階段を上がる音が聞こえた。
『…じゃあね。美波(みなみ)』
それ以降、彼の声は聞こえることはなく
私は消防士に救出された。
その後、消防に電話を掛けたのは拓也と名乗る男、
消防士が駆けつけた時には誰もエレベーター前には居なかった事を聞かされた。
「…そっか。助けてくれたんだね」
拓也は、私の元彼だ。今もずっと大好きな。
【暗がりの中で】
「僕は青いお空を見た事がない。
いつも見てるのは、黒いお空ばっかり。
だって出ちゃダメだーってお父さんに言われるんだもん。
お星様が見えるお空も綺麗だけどさ。
僕はやっぱり青いお空が見てみたい。
…お父さん、寝てる。
今なら、大丈夫かな。
…わ、まぶしい。
…へぇ、これがあおぞらって言うお空なんだね。
すごい。絵本で見たとおりだ。
あれがおひさまって言うやつなのかな。
あったかくて、きもちいい…。
なんでだろう。からだに力がはいらなくなってきた。
ああ、じめんもあったかいなぁ。
こんなきれいなおそらがみれて
ぼく…うれし…………」
そして、吸血鬼の子どもは灰になった。
【どこまでも続く青い空】
多分、僕は世界で1番睨まれていると思う。
誰もが僕をじっと睨む。
それも鋭い目つきで。
僕の身体のいたるところを睨む。
普段、僕になんか気にも留めないくせに。
片目で睨みつけないでよ。
僕何もしてないよ。怖いよ。
ただここに突っ立ってるだけなのに。
「…えー」
「んー…う、上?」
『はい、視力Cね。全然見えてないじゃない』
「いやー、最近ゲームしてるからかな」
『ほんと気をつけるのよ』
『はい次。今度は右目隠してね』
【鋭い眼差し】
「私、もうすぐ天国に行くんだ」
「だから、絶対会いに来てね」
『…当たり前じゃん。何処にだって会いに行くよ』
「嬉しい」
満面の笑みを浮かべた君は
その2日後、予告通り天国に行った。
会いたい。抱きしめてあげたい。
そんな僕の思いは無残にも
この世界の重力によって叶うことはなかった。
どれだけ高い所から手を伸ばしても
どれだけ高く飛び跳ねても
天国には届かない。
僕はふと、下を見た。
……ああ、なんだ。そう言うことか。
上に行くには
下に落ちる必要がある。
この世界って理不尽。
…でもこれで、
ようやく、会いにいけるよ。
【高く高く】