「きゃっ!て、停電…?」
突然、エレベーターがガタンと揺れ動きを止めた。
辺り一面真っ暗で、ボタンが何処にあるのかも分からなかった。
「どうしよう…怖い」
スマホも持っていないから、連絡手段も無い。
私はカタカタ震えながら助けを待った。
『大丈夫ですか!!聞こえますか!』
何処からか大きな声が聞こえる。きっと助けだ。
「き、聞こえます!!助けてください!」
『………』
『よかった。まずは落ち着いて』
『今、消防の方に連絡したので安心してください』
「ありがとうございます…」
私は安堵し、ポロポロと泣き崩れてしまった。
『大丈夫です。消防の到着まで僕がここに居ますから』
何故か聞き慣れたような、そんな優しい声に
私は自然と癒されていた。
『暗いところ、苦手ですか?』
「…はい。昔から怖くって」
変わってないね。そうボソッと聞こえた気がした。
「…そういえば、お名前…なんて言うんですか」
『…拓也(たくや)です』
「え」
その瞬間、ドタドタと複数人が階段を上がる音が聞こえた。
『…じゃあね。美波(みなみ)』
それ以降、彼の声は聞こえることはなく
私は消防士に救出された。
その後、消防に電話を掛けたのは拓也と名乗る男、
消防士が駆けつけた時には誰もエレベーター前には居なかった事を聞かされた。
「…そっか。助けてくれたんだね」
拓也は、私の元彼だ。今もずっと大好きな。
【暗がりの中で】
10/28/2024, 3:35:57 PM