(書いている世界にお正月が存在しないので見送ります)
・ご挨拶
いつも読んでいただきありがとうございます。
うみ と申します。皆様の作品を楽しみつつ執筆を続けるうちに、いつの間にか百作以上を書いていました(一文だけの日も何度かありましたが)。
せっかくの新年、良い機会かと思いまして、今回は私がいつも書いている物語のあらましを少しお話ししたいと思います。
こちらへ投稿している小説は二つのシリーズに分けられます。物語の舞台は同じでこの世界とは違ういわゆる「異世界」です。魔法があったり、魔獣が存在したり、カラフルな髪と目を持つ人が居たりします。
一作目から八十五作目までで書いているのが、魔法学園の同級生四人のお話です。私は「四人組シリーズ」と読んでいます。
・白髪に緑色の眼の子
・銀髪に紫色の眼の子
・灰色の髪に水色の眼の子
・茶髪に橙色の眼の子
この四人がわちゃわちゃしているだけですが、書くのがとても楽しくてお気に入りのシリーズです。
紫の子と緑の子、橙の子と水色の子がペアになっています。両片思いだったり、付き合っていたり、一緒に住んでいたりと時系列はさまざまです。緑の子と水色の子は親友で、お互いに恋愛相談をするなんてこともある様です。四人の名前は敢えて出していないので、ご自由に想像してみてください。
もう一つのシリーズは八十六作目から現在も書いているものです。こちらは男女二人と彼らを見守る友人の女性、という人物構成になっています。
・ミルクティー色の髪に竜胆色の瞳の女性
・夜空色の髪に金色の瞳の男性
・外見描写なし、二人より年上の女性
この三人がおもしろおかしく、たまにシリアスに過ごしているお話です。色々と深い過去がありそうですがここでは割愛します。こちらも時系列はさまざまです。
現在は三人組の方をメインで書いていますが、四人組もいずれ書き始めたいと思っています。その時は区別するために、小説の初めに「四人組」か「三人組」かを書いておくつもりです。
これから七人がどうなるのかは私にもわかりません。いつか二つのシリーズがクロスオーバーしたら楽しそうですね。これからものんびりと小説を楽しんでいただけたら幸いです。
それでは皆様、良いお年をお過ごしください。
――何年でも待ち続けよう。
一月、一年のはじまりから熱を出してしまいました。ここしばらく上手に眠れていないことがたたった、と少し怒られました。
二月、雪だるまの作り方を私はまだ知らないでいます。はじめて触る雪は想像よりずっと冷たくて、十秒も遊んでいられませんでした。
三月、窓のそばに見慣れない淡いピンク色の花が咲きました。あっという間に散ってしまって、ああ、押し花にでもしておけば良かった。
四月、隣のお家の女の子が学び舎でもらったという教材を見せてくれます。素敵な学友と先生に恵まれて、楽しく過ごせますように。
五月、いつからかお庭に生えたミントが手をつけられないほど茂っています。この家までぜんぶ覆われてしまいそうな勢いです。
六月、この季節は雨が続きますね。あの日は雨ではなくて雪が降っていて、不思議ですね、雨の方が雪よりも冷たく感じるなんて。
七月、昨日から急に暑くなって、少し置いておいたコップが汗をかくほどです。日差しが強いせいで、今日は外に出られませんでした。
八月、友人が水分補給にと不思議な果物を持ってきてくれました。皮は黒と緑の模様なのに中は真っ赤で、とても甘いんですよ。
九月、今夜の月はいつもよりずっと大きく美しく見えます。……月がきれいですね、なんて伝えたい相手はもう居ないというのに。
十月、朝と昼の気温差が激しいせいか、体調を崩しがちになりました。今日も朝から頭痛がして、大人しく窓の外の紅葉を眺めています。
十一月、街に出かけると並木の葉がほとんど散っていました。少し前まであんなに色とりどりの葉をつけていたのに、いつの間にか。
十二月、北の方では初雪が見られたそうです。あなたを失った季節だというのに、街は生誕祭の準備でこわいほど賑やかでした。
十三月、あなたとの約束を守ってちゃんとしあわせに暮らしています。私が天寿を全うしてあなたのところに行くまで、待っていてくださいね。
(1年を振り返る)
――種がないのも困りもの。
二階の自室からダイニングへ下りると、遊びに来ている友人が見慣れないものを食べていた。手土産だろうか、それと同じものが小さな木の籠に積まれて置いてある。香りは普段よく食べるオレンジと似ているけれど、少し、違うような。
「オレンジ、ですか?」
持ってきた本を机の端に寄せて、橙色の果物を指先でつつく。なんだか小さくて丸っこい。
「ミカンっていうのよ」
「みかん?」
「ほら、この前ユズを見せたでしょう。あれと同じ地域で育つ柑橘類よ」
あのお湯に入れる果物の仲間らしい。でも、それならだいぶ酸っぱいんじゃないだろうか。
「甘いんですか?」
「ええ、普通のオレンジよりもね」
食べてみる? とひとつ差し出されたみかんをまじまじと眺める。オレンジよりも皮が柔らかい。友人も素手で皮を剥いている。
「ナイフは要らないんですね」
「食べやすくて良いわよね。簡単に剥けるわ」
なるほど、とひとつ頷き、友人を真似てみかんに力を込める。あ、本当に簡単に剥ける。
「実が小さいです」
「そこが難点かしら。いくつか食べないとお腹にたまらないわ」
「……それ、何個目ですか?」
「さあ……いくつかしらね」
わざとらしく目を逸らした友人に呆れつつ、テーブルに目を落とす。……三つか四つはありそうだ。こんなに食べて、夕飯が入るのか心配になる。
「ほら、食べてみなさいな」
「そうですね」
促されるままひとつ口に含む。
「ん、甘くて美味しいです」
「でしょう」
三つ四つと手が伸びてしまうのもわかるかもしれない。少し酸っぱくて、でもそれ以上に果物らしい甘さがちょうどいい。
「これ、育てられないでしょうか」
「庭で?」
「種があれば……」
「種が出にくいように品種改良されてるみたいよ」
「たくさん食べれば……」
夕食が入らないくなるわよ、と笑いながら言われてしまう。
「なら夕飯の後に食べます」
「はいはい、私も手伝うわ」
翌日、黄色っぽくなった肌に二人して悲鳴をあげるのはまた別のお話。
(みかん)
──今度いっしょに。
隣を歩いていた彼女が、何でもないことのように突然呟いた。
「最近、子どもたちが昼間に遊んでいますね」
「ああ、そうだな……?」
視線の先では、学び舎に通っているだろう年齢の子どもたちがはしゃいでる。何も不思議なことは無いと思うが。
「学園はお休みなんでしょうか」
「? 冬休みだろう」
「……ふゆやすみ」
竜胆色の瞳がぱちくりと瞬きをする。まるで初めて聞く言葉のような反応だ。
「冬休みは、ずっと屋敷でお勉強をする期間では」
「……君の家ではそうだったんだろうな」
その一言でだいたいの事情を察せてしまう。彼女の過去を根掘り葉掘り尋ねるなんてことはしないけれど、苛烈な教育方針の中で育ったのだろう。
「君は、冬休みに何をしたい?」
「ふゆやすみに」
「何処かに旅行へ行くとか、外食をしに出かけるとか」
「私……」
言葉を紡ごうとしては上手くいかずに口が何度か開閉するのを、何も言わずに見守る。
「雪に、触ってみたいです」
「雪、か」
今年は降るだろうか。平年と比べてやや暖冬だと聞いたけれど。
「あと」
「ん?」
「雪だるまを作ってみたいです」
「ああ、それも良い」
庭先ではしゃぐ子供達をじっと見つめる視線に、年長者として彼らを見守る暖かさと――羨望の混じる幼さを感じて。暖冬だろうがなんだろうが、彼女のために雪が降れば良いと思った。
(冬休み)