──今度いっしょに。
隣を歩いていた彼女が、何でもないことのように突然呟いた。
「最近、子どもたちが昼間に遊んでいますね」
「ああ、そうだな……?」
視線の先では、学び舎に通っているだろう年齢の子どもたちがはしゃいでる。何も不思議なことは無いと思うが。
「学園はお休みなんでしょうか」
「? 冬休みだろう」
「……ふゆやすみ」
竜胆色の瞳がぱちくりと瞬きをする。まるで初めて聞く言葉のような反応だ。
「冬休みは、ずっと屋敷でお勉強をする期間では」
「……君の家ではそうだったんだろうな」
その一言でだいたいの事情を察せてしまう。彼女の過去を根掘り葉掘り尋ねるなんてことはしないけれど、苛烈な教育方針の中で育ったのだろう。
「君は、冬休みに何をしたい?」
「ふゆやすみに」
「何処かに旅行へ行くとか、外食をしに出かけるとか」
「私……」
言葉を紡ごうとしては上手くいかずに口が何度か開閉するのを、何も言わずに見守る。
「雪に、触ってみたいです」
「雪、か」
今年は降るだろうか。平年と比べてやや暖冬だと聞いたけれど。
「あと」
「ん?」
「雪だるまを作ってみたいです」
「ああ、それも良い」
庭先ではしゃぐ子供達をじっと見つめる視線に、年長者として彼らを見守る暖かさと――羨望の混じる幼さを感じて。暖冬だろうがなんだろうが、彼女のために雪が降れば良いと思った。
(冬休み)
12/29/2024, 9:58:53 AM