うみ

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12/29/2024, 9:58:53 AM

 ──今度いっしょに。


 隣を歩いていた彼女が、何でもないことのように突然呟いた。

「最近、子どもたちが昼間に遊んでいますね」
「ああ、そうだな……?」

 視線の先では、学び舎に通っているだろう年齢の子どもたちがはしゃいでる。何も不思議なことは無いと思うが。

「学園はお休みなんでしょうか」
「? 冬休みだろう」
「……ふゆやすみ」

 竜胆色の瞳がぱちくりと瞬きをする。まるで初めて聞く言葉のような反応だ。

「冬休みは、ずっと屋敷でお勉強をする期間では」
「……君の家ではそうだったんだろうな」

 その一言でだいたいの事情を察せてしまう。彼女の過去を根掘り葉掘り尋ねるなんてことはしないけれど、苛烈な教育方針の中で育ったのだろう。

「君は、冬休みに何をしたい?」
「ふゆやすみに」
「何処かに旅行へ行くとか、外食をしに出かけるとか」
「私……」

 言葉を紡ごうとしては上手くいかずに口が何度か開閉するのを、何も言わずに見守る。

「雪に、触ってみたいです」
「雪、か」

 今年は降るだろうか。平年と比べてやや暖冬だと聞いたけれど。

「あと」
「ん?」
「雪だるまを作ってみたいです」
「ああ、それも良い」

 庭先ではしゃぐ子供達をじっと見つめる視線に、年長者として彼らを見守る暖かさと――羨望の混じる幼さを感じて。暖冬だろうがなんだろうが、彼女のために雪が降れば良いと思った。


(冬休み)

12/28/2024, 10:00:17 AM

 ──ふたりなら寒くない。


 二人並んで初心者用の手芸の本と睨み合って、ようやく形になったそれの不恰好さに笑い合いながら雪の積もった道を歩く。ところどころほつれていたのに市販のものよりあたたかく感じたのは、今まで買ったどんなものよりも輝いて見えたのは、きっと。



(手ぶくろ)

12/27/2024, 9:54:04 AM

 ──みっつの光。


 変わらないものはない、なんて言うでしょう。
 あの言葉は半分間違いで半分正解だと思うんです。

 きっと、変わらないものは「ほとんど」ない、が正解に近いんじゃないでしょうか。


 だって。
 あなたの瞳の輝きは翳らないんですから。


 出会った頃からずうっときらきらして眩しくて、
 長い間見ていると眼が灼けてしまいそうで。
 
 どれだけ長い間一緒にいてもぴかぴかしていて、
 やっぱり目を閉じると残像が浮かびそうで。


 ……残像が現れるのは網膜でしたっけ、それとも脳の方?

 まあどちらでも良いんです、とにかくあなたの瞳が眩しいというだけ。


 むかし言ってくださいましたね、自分の人生を全て渡すから君の人生も全て欲しいと。

 それならあなたのきらきらの瞳も私のものですか。

 私だけのものにして、ずっと見ていても──


 ……いいえ、駄目ですね。こんなに綺麗なんだから、たくさんの人が見るべきです。
 私だけの光なんかじゃなくて、もっと多くの人を照らすことができるんですから。

 ずっときらきらぴかぴかでいて下さいね、
 太陽みたいで、月みたいで、星みたいな光のひと。

(変わらないものはない)












 ……たまには私だけの光になってほしい、と言ったら呆れられてしまうでしょうか。
 

12/26/2024, 10:10:00 AM

書いているお話の世界にクリスマスが無いため見送ります

12/23/2024, 12:59:16 PM

 昨日で100作品目でした! いつも読んでいただきありがとうございます……!


***


 ──いちばんの。


 どうにも本に集中できない。ずっと読みたかった、好きな作者の新刊なのに。
 窓側の壁にかかった時計を見て、少ししか進んでいないことにため息を吐く。これも何度繰り返したかわからない。

「いくら時計を見たって、時間の速さは変わらないわよ?」
「……わかってます」

 笑みを含んで友人が言うのに、自分の思うよりも拗ねた声が出た。

「待ち遠しいのはわかるけどね。もうできる準備は済ませちゃったんだから、大人しく待ってなさいな」

 ダイニングテーブルに並べられた食事をちらりと見ながら言う。二人で作ったご馳走は、待ち人の好物ばかりだ。おいしそうな匂いが漂ってくる。

「時間が操れたら良いのに……」
「あなた、あいつの事になると時々変になるわねぇ」
「自覚してます」
「仲が良くて何よりだわ」

 からかい混じりの台詞からふいっと顔を逸らすと、玄関の方から物音がした。しおりも挟まずに本を閉じて立ち上がる。

「あら、お待ちかねね」

 友人の声に背を向けて、ワンピースの裾を軽く直しながら少しばかり冷える廊下を駆け足で行く。視線の先で扉が開いて、外の空気が一気に流れ込んだ。
 寒さで肌が泡立つのも気にならない。扉を閉めた背中がこちらを振り向く前に、ありったけの嬉しさと安堵を込めて口を開いた。

「──おかえりなさい!」

 待ち焦がれた金色の瞳がふわりと緩んで、しばらく聞いていなかった声が向けられる。

「……ただいま」

 その声が、生誕祭なのに何もを買って来られなかったと謝罪の言葉を続けるから、思わず笑ってしまった。


 ──あなたが無事に帰ってきてくれたことが、一番のプレゼントなんですから!



(プレゼント)

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