昨日で100作品目でした! いつも読んでいただきありがとうございます……!
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──いちばんの。
どうにも本に集中できない。ずっと読みたかった、好きな作者の新刊なのに。
窓側の壁にかかった時計を見て、少ししか進んでいないことにため息を吐く。これも何度繰り返したかわからない。
「いくら時計を見たって、時間の速さは変わらないわよ?」
「……わかってます」
笑みを含んで友人が言うのに、自分の思うよりも拗ねた声が出た。
「待ち遠しいのはわかるけどね。もうできる準備は済ませちゃったんだから、大人しく待ってなさいな」
ダイニングテーブルに並べられた食事をちらりと見ながら言う。二人で作ったご馳走は、待ち人の好物ばかりだ。おいしそうな匂いが漂ってくる。
「時間が操れたら良いのに……」
「あなた、あいつの事になると時々変になるわねぇ」
「自覚してます」
「仲が良くて何よりだわ」
からかい混じりの台詞からふいっと顔を逸らすと、玄関の方から物音がした。しおりも挟まずに本を閉じて立ち上がる。
「あら、お待ちかねね」
友人の声に背を向けて、ワンピースの裾を軽く直しながら少しばかり冷える廊下を駆け足で行く。視線の先で扉が開いて、外の空気が一気に流れ込んだ。
寒さで肌が泡立つのも気にならない。扉を閉めた背中がこちらを振り向く前に、ありったけの嬉しさと安堵を込めて口を開いた。
「──おかえりなさい!」
待ち焦がれた金色の瞳がふわりと緩んで、しばらく聞いていなかった声が向けられる。
「……ただいま」
その声が、生誕祭なのに何もを買って来られなかったと謝罪の言葉を続けるから、思わず笑ってしまった。
──あなたが無事に帰ってきてくれたことが、一番のプレゼントなんですから!
(プレゼント)
12/23/2024, 12:59:16 PM