──なお、二人とも寝不足である。
「ねえ、サラマンダーは水浴びをすることがあるって聞いたことあるかしら」
「昔、図鑑で読んだような気がします。火を吹いた後、上がりすぎた体温を下げるために川や海に浸かるんですよね」
「そうよ、流石の知識量ねぇ。私、実際に見たことあるのよ」
「火山にでも住んでたんですか……? サラマンダーの生息域はこの辺りではないですけれど」
「違うわよ、はぐれサラマンダーよ」
「あ、なるほど」
「それでね、あいつらって尻尾に火がついてるでしょう」
「ええ」
「そこが水に浸かるのが嫌なのか、尻尾だけ上げて水の中にしゃがみ込む感じで水浴びするのよ。それがなんだかクロコダイルみたいで可愛くて」
「かわいい、ですか」
「おいしそうとも言うわね」
「食べ……?」
「意外といけるわよ、ワニ肉。今度食べさせてあげるわ」
「どんな味なんですか?」
「鶏肉みたいでさっぱりしてるわね」
「じゃあ唐揚げにでもして……」
「あなた、結構食い意地張ってるわよねぇ……」
(とりとめもない話)
──早く元気になりますように。
(風邪)
後日加筆します
──いつまでも待っています。
「おねえさん、だれをまってるの?」
「大切な人を」
「たいせつなひと?」
「大好きな人です」
「さむくないの?」
「ええ、少し寒いですね」
「なかにはいらないの?」
「あの人がいないので」
「さみしいの?」
「とても」
「いつくるの?」
「わかりません」
「なのにまってるの?」
「約束したんですよ」
「どんなやくそく?」
「それは秘密です」
「ふうん」
「あなたも誰かを待っていらっしゃるんですね」
「そう。ともだち」
「どのくらいここに居るんですか?」
「ゆきがふるまで」
「雪が降ったら会えるんですね」
「たぶん、そう」
「楽しみですねぇ」
「あいつ、おそい」
「待ちくたびれちゃいました?」
「ううん。やくそく、だから」
「おなじですね」
「うん、おなじ」
「雪、早く降るといいですね」
「……うん。おねえさんも、はやくあえるといいね」
「ふふ、ありがとうございます」
(雪を待つ)
──光る地面の上を飛ぶ。
魔力を持たない者は魔法を使えない。箒で天を舞うこともできない。
だから、空を飛びながら地上を見るのはひどく新鮮な気分だ。
「寒くないですか?」
「大丈夫だ」
深い藍の夜空に、彼女のミルクティーのような髪色はよく映える。自分よりずっと細い肩に捕まりながら、北風にかき消されないように声を張って返事をした。
目を下に向ければ、無数の光が見える。やはり、首都は夜でも明るい。夜のない都市とはよく言ったものだ。ずっと見ていると目が眩む。
「いつもこれほど明るいのか?」
「はい? すみません、風が」
「いつも、こんなに、多くの光が灯っているのか」
空を飛ぶのは楽しいけれど、互いの声が届きにくいのが欠点だろうか。
「いいえ、感謝祭が近いから、多くの家がランタンを飾っているんです」
「ああ……もうそんな時期か」
そう聞いてから改めて地上を見下ろすと、眩しいだけだった灯りが違うように見える。これら全てに人々の願いが込もっていると思うと、なんだか。
「美しいな……」
「ええ、とても」
目を大きく開いて、瞬きもせずに願いの象徴を瞳に焼き付ける。空気で乾くのも気にならない。涙が浮かんできてさすがに閉じると、瞼の裏にくっきりと光が浮かんだ。
「もう少し飛びますか?」
「頼む」
思わず声が弾んでしまう。
冬の空に、鈴を転がすような笑い声が響いた。
ああ。本当に、美しい景色だ。
(イルミネーション)
──もう十分なのに。
まだ私に愛を注ごうとなさるんですね、あなたは。
私に返せるものなんてほとんどないのに、等価交換にはならないのに。
この世界の常識をご存知でしょう?
与えられた分は返さねばならないのです。
もうやめてください。
そんなにうつくしい愛をいただいてしまっては、私が世間から後ろ指を指されてしまいます。
あのひとはあんなに貰ってるのに返していないと。
あなたにはもっと他に相応しい方がいるでしょう?
私のことなど忘れて、早く新しい愛を見つけてくださいませ。あなたの記憶の隅を陣取ることすら烏滸がましい。早く記憶から消してくださいませ。
それが。それだけが。
私が唯一差し出せる、愛とやらなのですから。
(愛を注いで)