うみ

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 ──光る地面の上を飛ぶ。


 魔力を持たない者は魔法を使えない。箒で天を舞うこともできない。

 だから、空を飛びながら地上を見るのはひどく新鮮な気分だ。


「寒くないですか?」
「大丈夫だ」

 深い藍の夜空に、彼女のミルクティーのような髪色はよく映える。自分よりずっと細い肩に捕まりながら、北風にかき消されないように声を張って返事をした。

 目を下に向ければ、無数の光が見える。やはり、首都は夜でも明るい。夜のない都市とはよく言ったものだ。ずっと見ていると目が眩む。

「いつもこれほど明るいのか?」
「はい? すみません、風が」
「いつも、こんなに、多くの光が灯っているのか」

 空を飛ぶのは楽しいけれど、互いの声が届きにくいのが欠点だろうか。

「いいえ、感謝祭が近いから、多くの家がランタンを飾っているんです」
「ああ……もうそんな時期か」
 
 そう聞いてから改めて地上を見下ろすと、眩しいだけだった灯りが違うように見える。これら全てに人々の願いが込もっていると思うと、なんだか。

「美しいな……」
「ええ、とても」

 目を大きく開いて、瞬きもせずに願いの象徴を瞳に焼き付ける。空気で乾くのも気にならない。涙が浮かんできてさすがに閉じると、瞼の裏にくっきりと光が浮かんだ。

「もう少し飛びますか?」
「頼む」

 思わず声が弾んでしまう。
 冬の空に、鈴を転がすような笑い声が響いた。


 ああ。本当に、美しい景色だ。



(イルミネーション)

12/15/2024, 10:26:56 AM