わに

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3/13/2024, 12:59:06 PM

肩に回された腕の重みや、服越しに伝わってくる体温。
勝気につり上がった口の端。その唇の形の美しさに、僕は何度も恋をしているのです。

同じ母の胎から、同じ日、同じ時間にうまれたというのに、僕と彼は少しも似ていませんでした。眉の濃さ、瞳のかたち、鼻の高さに、耳朶の厚み。僕とは正反対の彼の全てが、いつも輝いて見えていました。
憧れる日もありました。羨む日もありました。憎む日もありました。二段ベッドの、彼が眠る下。何も知らない呑気な寝息を聞きながら、涙を流す日もありました。こんなに違うのに、彼と僕に流れる血だけは同じでした。
──それらは確かに“呪い”でした。
僕はこの呪いを背負って生きているのです。誰に言うことも無く、決して悟られることのないように。

肩に回された腕の重みや、服越しに伝わってくる体温。
勝気につり上がった口の端。その唇の形の美しさに、僕は今日も恋をしているのです。



#ずっと隣で

3/12/2024, 12:29:06 PM

帰り道で見つけた、季節外れのたんぽぽの綿毛のような人だった。
思わず摘み取った綿毛は、家に着くまでの十数分の間に全て風に飛ばされた。残ったのは握りしめたせいでぐんにゃり曲がった緑の棒と、手についた青臭い匂いだけ。
俺はそれを少しの間見つめて、何を思ったか、台所までパタパタ走って、流し台に置かれた洗い残しのコップに茎をさした──そんなこともあった、とひとり頷く。
親指と人差し指でつまんだ一枚の写真。
薄汚れ、端が千切れたそれに写る、女性の微笑み。
白いワンピースがよく似合っている。季節外れのたんぽぽの、綿毛のようなその人の、声も体温も俺は知らない。

ね、かあさん。どうして俺を置いていったの。



#もっと知りたい

3/11/2024, 12:38:35 PM

厚い唇が咥えた煙草の、長く伸びる灰を見ていた。
伸びて、伸びて、やがて崩れ落ちたそれを彼は少しも気にすることなく、私が飲んでいたオレンジジュースの缶の中に、無断で吸殻を捨ててしまう。
「ちょっと、まだ残ってたのに」
「んー……」
聞いているのかいないのか、曖昧に返事をしながら次の煙草に火をつける。
溜息のように吐き出された白い煙。
私はそれを吸って、吸って、やがて肺が黒く染まり、病に倒れたしても、彼はきっと素知らぬ顔で私を捨てて次の女のもとへ行くのだろう。
たまらず彼の細い身体に腕を回して、そっと頬を擦り寄せる。危ないよ、なんて言っても煙草は咥えたままだった。
灰が伸びていく。まだ落ちないで、と私は祈る。



#平穏な日常