帰り道で見つけた、季節外れのたんぽぽの綿毛のような人だった。
思わず摘み取った綿毛は、家に着くまでの十数分の間に全て風に飛ばされた。残ったのは握りしめたせいでぐんにゃり曲がった緑の棒と、手についた青臭い匂いだけ。
俺はそれを少しの間見つめて、何を思ったか、台所までパタパタ走って、流し台に置かれた洗い残しのコップに茎をさした──そんなこともあった、とひとり頷く。
親指と人差し指でつまんだ一枚の写真。
薄汚れ、端が千切れたそれに写る、女性の微笑み。
白いワンピースがよく似合っている。季節外れのたんぽぽの、綿毛のようなその人の、声も体温も俺は知らない。
ね、かあさん。どうして俺を置いていったの。
#もっと知りたい
3/12/2024, 12:29:06 PM