わに

Open App

厚い唇が咥えた煙草の、長く伸びる灰を見ていた。
伸びて、伸びて、やがて崩れ落ちたそれを彼は少しも気にすることなく、私が飲んでいたオレンジジュースの缶の中に、無断で吸殻を捨ててしまう。
「ちょっと、まだ残ってたのに」
「んー……」
聞いているのかいないのか、曖昧に返事をしながら次の煙草に火をつける。
溜息のように吐き出された白い煙。
私はそれを吸って、吸って、やがて肺が黒く染まり、病に倒れたしても、彼はきっと素知らぬ顔で私を捨てて次の女のもとへ行くのだろう。
たまらず彼の細い身体に腕を回して、そっと頬を擦り寄せる。危ないよ、なんて言っても煙草は咥えたままだった。
灰が伸びていく。まだ落ちないで、と私は祈る。



#平穏な日常

3/11/2024, 12:38:35 PM