柳絮

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7/22/2023, 12:13:02 PM

もしもタイムマシンがあったなら


「生まれた私を殺しに行きたい」
夜景を背にした彼女は、そう言って笑った。
何でそんなことを言うんだとか、それは今自殺するのと何が違うのかとか、そうしたときに今の君はどうなるのかとか、いろいろ言いたいことはあったけど、全部飲み込んで、代わりに違うことを口にした。
「いつ生まれたの?」
「2006年1月22日」
「ふうん、1月22日ね」
彼女が首を傾げた。
「誕生日、祝ってあげるから楽しみにしてなよ」
「! ……うん」

7/22/2023, 11:57:06 AM

今一番欲しいもの


「特にないなぁ」
「えー無欲じゃん」
「そう?」
「普通もっとあるって。お金とか、時間とか、才能とか、学力とか、あと」
「あと?」
「……愛とか?」
「ふは。愛」
「愛だよ。必要じゃん」
「んーでももう持ってるしなぁ」
「え」
「うふふ」
「えーっと、それは、あれですか。家族愛、的な」
「まあそれもあるよね」
「……い、いつの間に彼氏作ったの!?」
「いないよー」
「え、?」
「付き合えてなくても、好きになったら、愛じゃん」

7/21/2023, 3:57:49 PM

私の名前


「寿限無寿限無五劫のすりきれ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶらこうじのぶらこうじパイポパイポパイポのシューリンガンシューリンガンのグーリンダイグーリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助の娘のすです」
「え!?」
「えじゃなくて、すです」
「いや反動にしてもひでぇだろうよ!?」
「おっ父は長い名前で苦労したので」
「そうだろうけどな」
「ちなみに漢字は『寿』」
「めでてぇな」

7/20/2023, 1:00:08 PM

視線の先には


(そう、だよね)
初めてできた親友。明るくてかわいくて、みんなの人気者。
初めて恋した相手。かっこよくて面白くて、みんな彼に夢中。
そう、だからこれは当然のこと。
2人が肩を寄せ合い、ひとつの傘におさまる。何かを囁き合っては、楽しそうに笑っている。
声は雨音にかき消されて聞こえない。
もうやめよう。忘れよう。どうせ無理だった。嫌われ者の私なんて。
祝福しよう。彼女を。たった1人、私の味方になってくれた子を。

7/19/2023, 2:42:15 AM

私だけ


「お前、変だよ」
「気持ち悪い」
「こっちにくんな」
みんなが私を睨む。その眼は金色で、体は白い毛に覆われている。
水に映った私の眼は灰色で、体は緑。水辺の苔むした岩みたい。
「いたぞ、色違いだ!」
「こりゃ高く売れそうだ」
きな臭い生き物に追いかけ回され、逃げているうちに群れに戻れなくなった。
「迷子か。おいで」
立派な角を持つその生き物は、私と同じところはひとつもなかったけど、優しかった。
私達は家族になった。

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