柳絮

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7/7/2023, 4:46:52 PM

七夕


「絵が上手くなりますように」
「小説が上手く書けますように」
「ギターが弾けるようになりますように」
「デザイン力が上がりますように」

「誰1人裁縫の話しないじゃない!」
「まあまあまあ」
「『彼女ができますように』!? 知るか!」
「まあまあまあ」
「『世界平和』? 荷が重いわ!!」
「まあまあまあ」
「こいつら七夕をなんだと思ってるの!?」
「でもみんな晴れるように祈ってくれるし」
「望みと釣り合ってないでしょーが!」

7/6/2023, 4:27:22 PM

友達の思い出


塗装の剥げたジャングルジムの前。夕焼け。絆創膏を貼った膝。5時のチャイムのひび割れた音。開いた口。震える手。
『----』
繋がった手の温かさ。長く伸びた影。遠くの笑い声。焼き魚の匂い。満面の笑顔。弾ける涙。
『いいよ!』

「え、全然覚えてない」
棒アイスを咥えた幼馴染は、目を瞬かせた。
「嘘だろ……」
「むしろよく覚えてんね。5歳くらいでしょ?」
「そりゃあ、」
お前と仲良くなったきっかけだし。と心中で呟いた。

7/5/2023, 12:58:35 PM

星空


ぬるい風が止むと、じっとりと汗が滲む。
「はい、アイスコーヒー」
「ありがとう」
受け取ったカップは冷たくて気持ちよかった。
「あ、夏の大三角」
彼女が上空を指差す。
「ベガがわかるなら、ほら、あれがヘルクレス座」
「えーわかんない」
「諦め早すぎ。覚えたかったんじゃないの?」
言って後悔した。感じが悪い。
「うーん、それ口実だし」
「え」
「って言ったらどうする?」
星のように煌めく瞳に見つめられて、僕は息を呑んだ。





神様だけが知っている


「っていう考え方って唯一神的だよね」
「話題が急だな」
「だって日本には八百万の神がいるんだよ? 神様『だけ』が知ってたとしてもさ、それ何十柱?って感じじゃない?」
「あーまあ、そうかも?」
「例えばさ、俺の未来を神様たちが知ってて、やいのやいの言うわけよ」
「やいのやいの」
「それってさ、盆正月に親戚ん家行って、知らんおっさんたちが俺の子どもの頃の話して盛り上がってるようなもんじゃん?」
「親近感すごいな」

7/4/2023, 2:24:31 AM

この道の先に


爽やかな風が吹いた。街の匂いが遠のき、代わりに緑の匂いが体を包む。
舗装されていない道は、しかし踏み固められていて、はっきりと行く末を示す。森へ分け入っていく先は霞んで見えないが、胸を高鳴らせるには充分だった。
リュックを背負い直す。腰の剣を左手で確かめて、最後に一度だけ街を振り返った。
「いってきます」
この先どうなるかはわからないし、何ができるかもわからないけど。
一歩を踏み出す。
さあ、冒険の始まりだ。

7/2/2023, 1:23:12 PM

日差し


燦々と降り注ぐ光を残らず反射したような、真っ白な日傘が目を焼く。持ち主の姿はすっぽりと隠されて、涼やかな水色のスカートと細い足だけが窺えた。
一陣の風が吹き抜ける。日傘を飾るレースのリボンがそよぐ。
風が何かを伝えたのか。日傘がゆっくりと振り返る。
眩しい太陽に溶け消えそうな儚くも美しい顔が見え、その瞳が自分を認めると、彼女は破顔一笑、日傘を放り出して飛んで来た。
「兄様!」
「うーん、台無し」
「?」

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