窓越しに見えるのは
はしゃいだ声と啜り泣く声が入り混じる。
だが大半の人間は、所在なさげに立ったり浮いていたりした。自由に過ごせと言われても、何をしていいかわからないのだ。
西暦2233年、地球環境はついに人間の生息が不可能なまでに変質し、他惑星への移住が断行された。
政府に言われるまま「避難」を決めた一般人も多い。だから僕も含めて「故郷を捨てた」という実感は薄い。
ただ、宇宙船の窓越しに見える地球は、まだ青く美しかった。
赤い糸
「何してんの?」
少し離れたところに立っている彼女に訊く。何か棒状のものをこちらに向けている気がする。
「それ何?」
「レーザポインター」
「うーん?」
何故そんなものを。近づこうとすると彼女の手が細かく動く。立ち止まって自分を見下ろしてみると、左手に赤い光があった。
「俺狙われてんの?」
「ある意味」
どういう意味でだろう。左手をかざしてみると、赤い光は薬指に留まった。
「ヒントは?」
「スモーク」
「謎すぎる」
入道雲
「あのさー」
「んー?」
「あの入道雲さー」
「んー」
「中にラピュタありそう」
「あー」
「飛行船乗りたいなー」
「ねー」
「そんでそっから落ちてさ」
「んー」
「ぐしゃって潰れたい」
「おー」
「だからさー」
「んー」
「手ぇ放してくんない?」
「絶対ぇヤダ」
ぶらぶらと空中に投げ出された体が揺れる。そろそろ手も痺れる頃だろうに、手首はガッチリ捕まったまま動かない。汗だくで生返事を返してたくせに、最後だけは力強くて笑った。
夏
降り注ぐ日差し。青々とした空。弾力のありそうな雲。
窓越しのそれらを眺めながら、水滴のついたグラスを持ち上げる。カランと氷が音を立てた。
エアコンからは冷たい風がガーガーと吹き、扇風機が冷気を部屋の隅々まで届ける。少し柔らかくなったパピコの口を切って吸い付くと、甘さと冷たさが脳を直撃した。
「っはあ〜〜〜夏サイッコー!!」
「いや姉ちゃん部屋でだらけてるだけじゃん」
「これが私の夏なんですうー!」
君と最後に会った日
君は揺れてきらめくピアスをしていたね。
首を振るとキラキラ光って涙のようだった。
腕時計はお揃いで買ったSEIKO。
細かい傷がたくさんついている。
白いブラウスは初めて見る服で、いつもと雰囲気が違った。
ジーンズも君にしては珍しかった。
よく行く店の、いつものコーヒー。
あんなに苦く感じたことはなかったよ。
去っていく君の後ろ姿は、今までで最高に美しかった。
胸を張って前を向いて、少しだけ切なそうな表情で。