繊細な花
例えば、風に吹かれて散ってしまうような。
例えば、1日にして枯れてしまうような。
例えれば、そんな人だと思っていた。
美しく、儚く、脆い、花のような人。
「いいえ、いいえ! 私は決して諦めません。逃げもしません。この国の民は私が守ります。守ってみせます」
嗚呼、貴女様がそう決めたならば、騎士としてそれに付き従うのみ。
民を守る貴女様を、何者をからも守りましょう。
腐った貴族からも悪の手からも、ドラゴンからでさえ。
1年後
柱の前に立つ。定規を頭に乗せ、固定してその下から抜ける。赤マジックで定規の下に線を引く。
新しい線は、その下の線とほとんど離れていなかった。
目線より少し上にも黒い線がある。そのうち追いつくと思っていたのに、差は開くばかりだ。
「どうだった?」
「そのにやけ顔むかつくんだけど」
「まあ別に? そんなに伸びる必要ないし?」
「は! プライドちっさ」
「お前、態度だけはどんどんでかくなってるよな……」
子供の頃は
お姫様のようだった。
肌は白くて、目は大きくて、背は小さくて体も細くて、恥ずかしがり屋で、笑顔が可愛くて、守ってあげたくなる子だった。
だったのに。
「どうしたんだよ、元菜」
「こんなふうに成長するなんて聞いてない……!」
「は?」
「ゴリマッチョじゃん! 私の可愛い幼馴染を返して!!」
「いやそんなこと言われてもよ……」
「しかも金髪! 顔に傷! 不良じゃん!」
「いやこれはバイク事故で」
「ごめん!!!」
「お、おう」
日常
湿度が高い。
梅雨といえば弱い雨がいつまでも降り続くものだったはずだが、最近はスコールばりの豪雨に台風までやってくる。晴れたと思ったら真夏日で、降った雨がそのまま空気に取り込まれてジメジメが悪化した。
それでも太陽の力を頼って洗濯物を干した後、クーラーを求めてカフェへ出かけることにした。日を避けて逃げ込んだ木陰に、可憐な白い花を見つけて足を止める。
「あ、ドクダミ」
鬱蒼とした日陰はなんだかひんやりした。
好きな色
「#ff0000」
「#ffa500」
「#4169e1」
「#fff8dc」
「なんっでカラーコードで言うの!? 普通に赤って言って!? あとオレンジと青と……あとなんか薄い……薄いクリーム色? わからん!」
「cornsilkだよ」
「青じゃないしroyalblueだし」
「わからん!! 知らん!!!」
「じゃあお前は?」
「熨斗目花色」
「他人のこと言えねえよ!」
「漢字も読めなさそう」
「何系かもわからないね」
あなたがいたから
いつも私は2番目だった。
注目も賞賛も喝采も、私には届かない。スポットライトの外で、輝くあなたを見ていた。
いつも私は脇役だった。
自分の持てる限りを尽くしても、あなたは軽々とそれを超えていく。私は引き立て役でしかなかった。
いつでも私は努力した。
血の滲むような思いで、誰よりも。他の全員が諦めても。私はいつでもあなたに挑み続けた。
「だから逃げないでよ」
私があなたに追いつくまで。追い越すまで。
相合傘
「入る?」
雨を眺めていたら、左上方から声をかけられた。
「え、」
「傘忘れたんでしょ?」
見上げると同級生が首を傾げていた。
「え、いや、悪いからいいよ」
「俺と相合傘は嫌?」
「や、嫌っていうか」
相合傘なんて言われると急に照れてしまう。が、問題はそこではない。
「身長差を考えて欲しいっていうか」
「……あー」
190近い彼と150の私では、一緒に入っても絶対顔から濡れる。間違いない。
そのあと2人で雨宿りした。
落下
急に目の前が開けた。見えるのは輝く夜景と霞む星々。
あ、しんだな。悟って全身から力が抜けた。次の瞬間、体の支えが無くなり、髪が上に靡き、腹の中がふわっと持ち上がった。風を切って体は真っ直ぐ落ちていく。反射的に全身を全力で強張らせる。えまだ落ちてる? 長くな「ぐえっ」
ガクン! と激しい衝撃とともに落下が止まり、今度は急上昇する。そしてまた落下。上昇。落下。
アトラクションを降りる頃にはふらふらになっていた。